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【報告】2014年度 高校生のための哲学サマーキャンプ(2)

2014.08.29 梶谷真司, 星野太, 神戸和佳子, Philosophy for Everyone

高校生のための哲学サマーキャンプ、2日目の様子について、チューターの西山より報告します。この日は主に、グループワークとプレゼンテーションを行いました。

サマーキャンプ2日目。前日同様に快晴であった。駒場キャンパスに移動をし、正門の前で写真を撮り、会場へ移動した。なかには少し眠そうな顔をしていた高校生もいたが、理由を聞いてみると、「前日の対話の後、部屋に帰って部屋員とずっと<知る>ということについて話していた」、とのこと。出会って間もない人たちと寝る時間を削ってまで議論をし、新たなことを知ることを心から楽しんでいる高校生たちに、私は改めて驚かされた。そして、ひとたびこの日の課題文が配られると、高校生たちは真剣なまなざしで課題文と、そしてグループメンバーとの対話を始めた。この日の課題文は、夏目漱石『行人』からの一節、「人間の不安は科学の発展から来る。進んで止まることを知らない科学は、かつて我々に止まることを許して呉れた事がない」であった。

高校生たちは5つのグループに分かれ、そこにチューターが2人ずつ入り、まずは30分ほど、対話を通して論点を出し始めた。私が入ったグループでは、1人1人が小さな紙に自分がこの文を読んで疑問に思ったことを書き、それを同時に見せ合いながら、様々な論点を出していった。そこでは「具体的にはどういうことなのか」といった問いから、「人間の不安はどのようなものか」、そして「人間は科学に対してこれからどうすればよいか」、といった論点が出された。私にとって印象的であったのは、彼らは課題文に対して、単に抽象的な概念を振り回して考え議論するだけでなく、彼らの生きる具体的な日常と課題文を照らし合わせて考えていたという点である。たとえば「人間の不安はどのようなものか」といった問いに対しては、ある高校生は自分自身が日に日にスマートフォン依存となっていることへの不安を例として挙げ、そこから「欲」という概念を取り出し、考えを深めていた。

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その後1時間ほど高校生たちはストラクチャーづくりを行った。高校生たちは対話で出てきた多様な論点をもとに、それらを取捨選択し、根っことなる問い(大きな問い)、それを論じるために必要な問い(中トピック)、結論から成るストラクチャーを創り上げた(私のいたグループでは「科学はどこへ向かうべきか」というテーマを根っこの問いとしてストラクチャー作成を行っていた)。残念ながら他のグループの議論の様子を見る機会があまりなかったものの、午後の全体でのストラクチャー発表の中でどのグループも独自の、非常に興味深い問いを立て、それを様々な角度から検討し、結論を出すという一連のタスクを見事に行なっていたところを見ると、私のグループのメンバーに限らずどの高校生たちもこの時間の中で多くのことを議論し、考え、学んだということがよくわかった。

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質疑応答の中では、他のグループからの鋭い質問に対してなかなか答えられなかったグループもあった。だが、そうして今まで自分たちが考えたことがなかったような新たな問いや視点に出会うことは、サマーキャンプが終わってからもまた考え続けるための重要な糧となる。しばしば哲学対話ではそうした「答えられなかった問い」や「もやもや感」を、「おみやげ」と呼ぶが、高校生たちはこれらのストラクチャーづくり、発表、質疑応答の中で、多くの「おみやげ」を持ち帰ることができただろう。

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林先生、梶谷先生、神戸さんの言葉で閉会した後も、高校生たちは会場に留まり話を続けていた。中にはチューターのところに来て、大学で哲学科を受けることを決めたと言った生徒もいた。普段はなかなか話すことのできない哲学的なテーマについて考えを交わすことのできる友達を見つけ喜んでいる生徒もいた。そうして多くの「おみやげ」と共に、哲学する仲間を見つけた高校生たちのサマーキャンプは、今年も無事に終わりを迎えた。

(報告:西山渓)

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