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時の彩り(ラスト・ラン) 157

2014.05.12 小林康夫

★連休があけて、またもや嵐の一週間でした。連休は、月刊雑誌『未来』で連載している戦後文化論の執筆。大江健三郎が終って、三島由紀夫にちょっと触れるという回になりました。あらためてこの時代の作家たちの暴力的とも言える力に圧倒されました。で、あけて7日水曜は、ドミニック・レステルさんとエリーズ・ドムナックさんと3人で議論。今回は、エリーズさんからわたしへの質問として、3・11福島から出発したさまざまなアート作品の「祈り」をどう評価するか、という問いが出されて、それを出発点にして、三人で熱い議論。聴衆なしの濃密な議論です。最近は、問題系によっては、こうした密室の対話の路線を行くときも多くあります。あるべき議論が不必要な方向に拡散し、稀薄化するのに耐えられないということもあるし、事態は切迫していて、いまや、とりわけ海外の研究者を交えてほんとうに濃密な対話を展開しなければならない時だということもある。一度は、象牙の塔を開くことを先頭に立ってやってきたわたしだと自負していますが、時代は変わりました。象牙の「塔」は不要だが、濃密さを保証する結界はたまには必要です。この日、議論を通じて、エリーズさんの講演会と6月に国際シンポジウムを行うことなども決まりました。

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★そして9日金曜が「高校生のための金曜特別講座」。駒場博物館で開催中の「《終わりなきパリ》、そしてポエジー」展にちなんだ講演会なのですが、18号館ホールは満員。高校生から年配の方まで多くの人に来ていただけました。(こういうふうに、大学を開くことはとてもいいこと。これは前項とは別の次元ですよ)。こういう文脈になると、わたしとしては、ジャコメッティについてただ語る、講義するというのではなくて、あくまでも高校生の心に直接に語ってみたいという気持ちになる。自分にとってのパリの意味、ジャコメッティという存在の意味など、わたし自身の人生と交錯したかれの芸術の探求を語ったのでした。結構、テンションあげましたね。会場からも遠隔地の高校からも鋭い質問が寄せられましたし、講演会のあとのギャラリー・ツアーには数十名もの方が参加してくださって、楽しくお話しました。しかもそのなかには、何年も会っていない旧友が来てくれたり、友人の美大の先生がいてくれたり。観客のおひとりに言われたのですが、そう、たしかに「世界でいちばん幸せ」なわたしであったかもしれません。

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★そして翌10日土曜のUTCPの今年度のキックオフ・シンポジウム。これは別に報告がアップされますので、そちらをごらんください。冒頭の挨拶がわたしの仕事でしたが、若い研究者たちに、哲学の新しいテオリアへ、前人未到の領域への勇気ある一歩を踏み出せ、と激しい檄をとばしたつもりです。いま一度、この時代における「哲学の使命」を思い出すのでなければなりません。そこにUTCPの存在理由がある、と言明しておきます。


★今週は、明日13日火曜5時から、ジャコメッティをめぐって、今度は、ゲストもお招きしてのシンポジウムがあります。どうぞおいでください。(イベント欄をご参照ください)。

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