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【報告】「マルテン・シュパンベルグ〈踊る講義(The Dancing Seminar)〉」 

2014.03.07 内藤久義

2013年10月12日(土)、東京大学駒場キャンパス・21KOMCEE 101室において、スウェーデン出身のダンサー・振付家であるマルテン・シュパンベルグ氏の講演会〈踊る講義(The Dancing Seminar)〉が開催された。

現在、欧米のダンスシーンでは、歴史・文化価値・評論・身体哲学を再考し、そこから派生して身体や振付を多角的視点から捉える動きが展開しており、シュパンベルグ氏は欧米において、その火付け役の一人であり、ダンスシーンはもちろんのこと、大学・美術館・ジャーナリズムの現場で常にその発言が注目され、多くのアーティストに影響を与えてきている。

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今回の講演は、シュパンベルグ氏が2013年3月までニューヨーク近代美術館(MOMA PS1) でアートと知の均衡を図る試みとして連続で行った、パフォーマンス&セミナー「The Dancing Seminar(踊る講義)」を東京大学駒場キャンパスで構想も新たに開催したものである。

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会場には50名を超える聴衆者が集まった。シュパンベルグ氏の講演から始まり、休憩をはさんで東京大学の小林康夫教授、内野儀教授を交えたトークセッション、その後質疑応答が行われた。今回はパフォーマンスセッションはなかったものの、全体を通してダンスシーンの現状と未来への展開へ向けて熱心な討議が行われた。

シュパンベルグ氏の講演は、「現代の資本主義体制の価値観の中に創造的活動はすべてが取り込まれている」という発言から始まった。我々の存在は資本主義の根幹システムに組み込まれており、そのような状態で創造性やパフォーマティヴィティなどと言っても、それは資本主義社会下の投資家と同じ行為である。このような関係性からどのようにしたら脱却できるのか、その方法として「資本主義の解体があげられるが、対立概念としてのマルクス主義的革命で対抗してもダメなのではないか」と述べる。

実現の可能性の道筋として、ダンスにはクリエイティビティが収斂されない瞬間がある。ダンスを通じて我々の主体から、ほんの少しでも人間的でないものに転換できたら革命の可能性があるのではないかと問う。シュパンベルグ氏は、その瞬間をローザスのダンサー、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの舞台で観たという。それはケースマイケルがダンスをしたのではなく、ダンスが彼女を通じて現れ、その瞬間ダンスはオブジェクトであったと結んだ。

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シュパンベルグ氏、小林氏、内野氏による第二部のトークセッションでは、シュパンベルグ氏の「ダンスはオブジェクトであった」との発言を受けて、小林氏からその言葉の真意についての問いから始まった。シュパンベルグ氏は、オブジェクトは多様であるが、それぞれのオブジェクトはそれぞれの知を持っていると述べ、さらに哲学や美学の概念から論を展開し、ダンスの知について、それは自らはアクセスできないが、ある時、関係を持つ瞬間が訪れると語った。トークセッションはダンスの新たな方向性を示すシュパンベルグ氏の持論の展開と、小林氏、内野氏の活発な応答が行われ聴衆者は聞き入った。

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講演会終了後、駒場キャンパス内で、ダンスや教育関係者10名が集い、シュパンベルグ氏を囲んで懇談会を行い、今回の「マルテン・シュパンベルグ〈踊る講義(The Dancing Seminar)〉」は活況のうちに無事に終了した。

(報告:内藤久義)

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