梶谷真司「邂逅の記録63：熊本での出張対話（2） いきなり熊本出張！」
2014.1.26 熊本での出張対話（2） いきなり熊本出張！
熊本での出張対話（2） いきなり熊本出張！
そもそも駒場祭の合コン企画は、「愛」について対話すれば、お互いたんに気が合う合わない、外見の好きか嫌いかのような表面的なことではなく、人柄や考え方のレベルでお互いを理解し合い、ただ会って話をするだけでは見えてこない相手の魅力が出てくると考えたからだ。そうすれば、普通では話をしない人どうしが話をするだろうし、その結果（願わくば！）普通では好きにならない人を好きになるかもしれない――そんな思惑からだった。
今村さんとの話し合いの場にいた大野さんは、こういう私の考えを実に素早く的確に理解して、企画案を立ててくださった。その後この企画書は、すぐさま上天草へ送られ、今度は担当者の木本臣英さんと電話で話をすることになった。しかし当然のことながら、市役所のほうでは訳が分からない。なぜ婚活で"哲学"なのか。しかも私は、対話の参加者はいろいろいたほうがいいという考えから、婚活とは無関係のいろんな年齢の地元住民の参加を提案していた。これではますます意味不明だ。なぜ婚活イベントに、結婚する気もない、既婚者や独身者を呼ばなければならないのか。
こっちとしても、初めての経験なので、今一つうまく説明できない。でも、趣旨にもかなっているし、必ずうまくいくという自信だけはあった。それで言葉を尽くして説明をするが、いかんせん、先方に哲学対話のイメージがないので、そう簡単には伝わらない。木本さんも趣旨だけは理解できても、具体的にどうなるかが分からない。上司の人に話をすれば、やはり疑問に次ぐ疑問、質問の嵐となる。そしてまた私と電話で話をする。
ちょうどそのころ、EMPの懇親会があり、そこに出席すると、またしても今村さんが人を紹介してくれた。赤井厚雄さんという、マイクロファンディングの会社ミュージックセキュリティーズの取締役（兼早稲田大学の客員教授）を務める人である。彼もまた、今村さんに声をかけられ、熊本で新しく投資事業を展開することになっていた。彼は近いうちに熊本に行く予定であったので、私もこの機会に上天草へ行き、市役所の人と直接会って説明することにした。その場でスケジュールを調整し、さっそく2週間後の9月27日から2泊3日で赤井さんと熊本へ出張することになった。
赤井さん自身は、南阿蘇で農業を営む大津愛梨さんと赤牛の飼育を事業化するための打合せが、出張の主たる目的であった。しかし今村さんは、出発までのわずかな期間に、上天草のほうでも投資先の候補になる事業者を探して打合せをセットしていた。そこで赤井さんと私は一緒にまず南阿蘇へ行き、そのあとに上天草へ行くことにした。
この大津愛梨さんは、旦那さんの大津耕太さんとともに、ドイツのミュンヘン工科大学で学位を取得し、耕太さんの親戚の後を継いで南阿蘇の地で農業をしている。2013年に阿蘇が世界農業遺産に認定される時には、FAO（国連食糧農業機関）で最後のプレゼンテーションを行った人でもある。赤井さんと南阿蘇に行って大津さんを訪ね、哲学対話のことを少し説明すると、彼女は即座に興味を示し、一緒にやりましょうと言ってくれた。今村さんからすでに私のことはある程度聞いていたようだが、それにしてもフットワークの軽い人だ。あまりの反応の良さに、こっちのほうが不安になる。何はともあれ、こうしてもう一人、熊本での対話のパートナーが見つかった。
そのあと最終列車で熊本駅まで戻り、市内のホテルに泊まる。翌日上天草へ向かった。そこで対話イベントの会場候補の一つだった天草四郎メモリアルホールを見学し、例年婚活パーティーの会場になっていたフィッシャリーナ天草へ行き、木本さんをはじめ市役所の職員の人たちと話し合いをした。そして婚活にとっての哲学対話の意義、具体的な段取りについて説明し、今後も前向きに検討していくことになった。
その日は上天草に宿泊し、翌日午前の便で東京へ戻った。その間、赤井さんとは、彼が投資の話をして、私は哲学対話の話をして、お互い深く共感し、意気投合していた。ここで詳しく説明することはできないが、哲学と投資は根底において相通じるものがある――そんな普通では考えられない境地に私たちは達していた。冗談のような本当の話である。このことについては、またいつか、きちんと書く機会もあろう。とにもかくにも、こうして12月の熊本での対話の準備は整っていった。
（続く）