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梶谷真司「邂逅の記録64:熊本での出張対話(3) いよいよ本番!(南阿蘇編)」

2014.01.31 梶谷真司, Philosophy for Everyone

2014.1.31 熊本での出張対話(3) いよいよ本番!(南阿蘇編)

上天草市役所の木本さんとは、その後も緊密に連絡を取り合い、当日のプログラム案を具体的に詰めていった。そして彼は、11月にはるばる出張で駒場祭に来て、「こまば哲学カフェ」に3日間、じっくり参加してくれた。それもきちんと市役所からの出張としてである。そしてもちろん二日目の「愛についての哲学対話」も出てくれた。この企画を私が立てたのは、対話が私たちの相互理解や問題の理解に大きく資するのであれば、それは恋愛についても、必ずプラスになるはずだと考えたからである。もともとこれは、上天草の婚活イベント以前に企画されたが、今やその予行演習としての位置づけになっていた。

果たして11月23日の駒場祭の「愛の対話」は、50人を超える参加者を得て、大盛況となった。しかも対話の効果は、イベント後に懇親会に来た人数の多さとなって現れた。実に参加者の半数近くが、イベント後の懇親会に来た。それだけ多くの人が、もっとお互いに話したかったのである。この成功は、上天草のイベントにとっても大きなプラスの材料だった。3日間参加してくれた市役所の木本さんも、具体的なイメージがつかめ、上天草でもうまくいくのではないかという感触をもってくれたようだった。

他方、大津さんのほうはあまりにも多忙で、具体的に何をするのかについて、事前の打ち合わせはできなかった。そして「ぶっつけ本番で行きましょう」との提案。さすが大津さん。面白い。どうなるか分からないが、何とかなる。そのほうがスリリングだ。というわけで、いよいよ12月6日~8日の日程で熊本へ。

6日(金)、南阿蘇へは院生を3人(RAの佐藤麻貴さんと宮田舞さん、研究会の中心メンバーの一人、小村優太君)をファシリテーター、サポート役として連れて行った。昼過ぎに熊本空港に到着。大津さんが迎えに来てくれた。当初は昼と夜の二回、対話の場を設ける予定であったが、昼は参加者が少なかったので、夜だけにして、まずは昼食をとりながら打ち合わせをすることになった。大津さんは、自分の進むべき方向について明確なヴィジョンをもっているので、対話もそれに沿ったものにするのがいいと考えた。そこで、まずは質問ゲームで「あなたにとっていい村とはどんなところか?」を共通の問いにし、そのあとの対話では、ストレートに「エネルギーについて疑問に思うこと」を問いの形で上げてもらい、進めていくことにした。

昼食後は、大津さんの自宅へ行き、畑や牧場を見せていただいた。そして夕方6時からの大津さん主催のイベント「南阿蘇でエネルギーを生み出せたらいいね!」に参加すべく、村の集会所へ行った。すでに多くの人が集まっていた。全部で20人くらい。年齢は20歳から70歳くらいまで。子連れで来ている人も多く、子供たちが走ったり寝転がったりの中での対話となった。

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質問ゲームの後、エネルギーについて疑問に思うことを問いの形で上げてもらった――「どうやったらエネルギーを作り出せるのか?」「エネルギーって何だろう?」「自然エネルギーの良い規模感はどれくらいか」「エネルギーはどんなところで無駄遣いしているか?」「エネルギー自給ができなくなったらどうなるか?」などなどいろんな問いが出た。投票の結果、「どの自然エネルギーがこの村にいいのか?」「何のためにエネルギーが必要なのか?」「自然エネルギーは本当にいいのか?」の3つが選ばれた。

そのあと2つのグループに分かれて、それぞれでこの3つから一つ選んで、対話を行った。一方は「自然エネルギーは本当にいいのか?」、もう一つは「何のためにエネルギーが必要なのか?」となった。私のいたグループは、後者のテーマだったが、どれくらい質素に生活できるのか、電気や水道が整備されていなかった時代にどのように人々がお互い関わり、助け合いながら生きていたか、他方で、それがどのような意味をもち、どういう点がよくて、どういう点で大変であったかなどが話題になった。また、農業を営むさいに、どれくらいの光熱費、燃料費がかかっているか、あまり意識されていないが、実は経費のかなりの割合を占めており、その意味でも自分たちで発電する必要があるとのことだった。

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いずれのグループも、目の前の課題から一歩下がって問うことで、どのような生活を目指すのか、エネルギー自給をどのような規模で考えるのか、人間が生きることが自然にとってどのような意味をもつのかなど、根本的なところから問題を考え直すことができたようだった。

対話は夜9時半ごろまで及び、そのあともみんな10時ごろまで集会所に残っていた。子供たちも、眠そうにしながらもぐずったり騒いだりせずに付き合ってくれた。彼らに対しては少し申し訳なかったが、とくにこのような場所では、子連れで家族ともども参加できるのが望ましいだろう。哲学対話によって、性別も年齢も越えて話ができたのではないかと思う。私たちにとっては、具体的な課題、問題があるところで対話を行ったのは、初めての経験であり、いい経験になった。南阿蘇の皆さん、大津さん、この場を借りてあらためて謝意を申し上げたい。

(続く)

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