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梶谷真司「邂逅の記録56:ハワイ大学との共同サマーセミナー(3) 北陸編」

2013.09.26 梶谷真司, 東西哲学の対話的実践

東京での2週間のセミナーを終え、8月17日(土)に金沢に移動した。翌日、18日(日)には、午前中に鈴木大拙館へ行き、午後には西田幾多郎記念館へ行った。いずれも非常に印象的な建築で、その場所にいることじたいが特別な思索を喚起するようなものだった。とりわけ西田記念館は、安藤忠雄による大建築の複合施設で、様々な部屋、空間から成り、西田に関する様々な資料を見ることができた。ここでは見学の後、西田哲学を専門に研究するPDの川村さんによる発表とディスカッションを行った。東京でのセミナーに続いて、この二つの記念館の訪問は、この後に行う参加する永平寺と天徳寺での研修のいい準備になった。

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永平寺での研修は、中島先生と鳥取の天徳寺の住職、宮川敬之さんとの縁による。宮川さんは中島先生が文学部の大学院の助手をしていたころの学生で、同じく中国哲学を専攻した異色の禅僧である。その宮川さんが永平寺で長年修業をしておられ、深い関係にあることから、永平寺での研修が企画された。プログラムも一般向けのものより長く、内容的にも特別なものにしていただいた。

いよいよ20日(火)、永平寺へバスで移動、1時に到着。UTCPの担当として事前の連絡から研修のコーディネートまでしていただいた国際部の黒柳禅師が迎えてくださった。まず宿泊する部屋へ案内された。1時30分からオープニングセレモニーがあり、まず永平寺に関するビデオを見る。そのあと3時から1時間ほど建物内を一通り見学して回り、続けて4時から入浴、5時には夕食をとった。続けて6時過ぎから座禅を行う。そして7時半から教育部門の長である後堂老師がお越しくださり、曹洞宗についての解説、および質疑応答をしていただいた。

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禅寺は夜も朝も早い。9時に消灯(「開枕」という)、翌日3時10分に起床。まだ外は真っ暗で、空には満月が煌々と輝いていた。30分後、3時40分から朝の座禅、1時間弱行って、4時30分から朝のお務め(朝課)に参加するため法堂へ移動。5時30分まで修業中の禅僧の方たちが行う礼拝の儀式に参加した。その間にようやく夜が明け、続けてさらに建物内を見学させていただいた。朝食はその後、7時になってからだった。8時から再び座禅。9時から閉会式を行い、10時半まで斎藤後堂老師と宮川・黒柳両禅師と、特別にディスカッションの時間を設けていただいた。

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この研修中に感じたのは、禅師の話にもあったが、日々の生活の隅々にまで修業が浸透していることだ。私たちはその一端に触れただけだったが、滞在中、そのつど若干の休憩時間を挟んでいたとはいえ、スケジュールは睡眠に至るまで、非常に緻密に決められていた。そして座禅の仕方だけでなく、歩き方、礼の仕方、食事の仕方まで、立ち居振る舞いや作法が細かく定められていた。とりわけ食事の作法は印象的で、器は両手で口の高さまで持ってきて、それから箸をとって食べる。そのさい、食べ物を自分と対等のものとみなしていただく。口の高さまで持ってくるのは、その表現でもある。そして器を台の上に戻す時も音を立てないようにする。終わった後、お米の入っていた器にお茶を入れてもらい、それで箸を洗う。・・・などなど。また食事のさいも入浴のさいも話をしてはいけないことになっている。

このようにとにかく振る舞いに明確な型をはめるので、おのずと自分の普段の行動を反省し、体と心の動きに意識的になる。座っているときだけでなく、生活全体が禅だと説明された言葉の意味が何となくでも分かった気がした。座禅をすることが貴重な体験だったことは言うまでもないが、それ以上に、わずか1泊2日とはいえ、禅的な生活を送ったのは、曹洞宗の大本山、永平寺であればこそであろう。そのことは、セミナー参加者みんなにとって忘れがたい経験であった。また、長年修業を積んだ禅僧の方たちと、じっくり時間をとって議論をし、直接教えていただけたことは、UTCPで特別に企画した研修だからこそできたことである。その点でも、今回ハワイ大学との共同サマーセミナーで永平寺に来たことは、大きな意味があった。

21日(水)、永平寺を後にして福井駅へ。そこから京都で乗り換え、鳥取へ向かった。翌22日と23日、宮川さんが住職をなさっている天徳寺で研修を行うためである。

(続く)

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