【報告】コミュニティ・イベント「おしゃべり読書のススメ」
2013年7月21日、東京都武蔵野市のマンション、桜堤庭園テラスの共用スペースにて、哲学対話のイベント「おしゃべり読書のススメ~東大〈てつがく〉プロジェクト~」が行われた。幼稚園から小学校6年までの9人の子どもたちと、お父さんとお母さん5人で、1つの輪になり、梶谷先生と私(清水)の進行で哲学対話を行った。
最初に、自己紹介とアイスブレーキングを兼ねて、自分の名前と「何をしているときが楽しいか」を言ってもらいながら、対話を始めた。ゲームをするのが好きな子や、外で遊ぶのが好きな子がおり、そうした違いをきっかけに、「家の中で遊ぶのと外で遊ぶのとではどっちが楽しいか?」といったことも考えた。家の外で遊ぶのが楽しいと言う子に理由と聞くと、「たくさんの友達と遊べるから」という答えが返ってくる。「楽しい」といった当たり前のような感覚についてふり返り、その理由を考えることは、大人であってもあまりしないことかもしれない。しかし、子どもたちに問いかけをして待っていると、よく考えている子がいる。ほかにも、「じゃあ、何をしているときがつまらないだろう」という問いも出てきて、考えが徐々にふり返りの方向、反省的な方向へ向かっていった。
後半は、『ともだちや』という絵本(作:内田麟太郎、絵:降矢なな)を読んだうえで、対話を行った。1時間100円で友達になる「ともだちや」という商売をしているキツネが、お金を払ったクマと一緒に嫌いなイチゴを我慢して食べたあと、オオカミと不思議な出会いをする物語だ。本を読み終えると、様々な問いが出された。「無理して友達になるのは本当に友達?」「一時の友達を作ることもありなのか?」という問いや、小さな子からは、「どうしてタヌキやほかの動物がいない?」というような、思わずみんなが笑ってしまうものまで。短い絵本だが、本当に様々な問いが、際限なく出てくるようだった。対話が進むうちに、「友達と知り合いはどう違うのか?」という問いがお母さんの1人から出され、「誕生日のプレゼントをくれたら友達」「遊びたい人が友達」といった考えが子どもたちから出てきた。イベントのテーマは「読書」だったが、作品を解釈したり味わったりするだけではなく、問いを出して考えるという読書の仕方があるということ、また、その際には人と話すと面白い発見があるということを、わかってもらえたのではないかと思う。
冒頭で書いたように、この日は、幼稚園の子どもから大人までが1つの輪になって対話をした。大人や大きな子たちに圧倒されて、小さな子が話しにくいかもしれないという心配が少しあったが、蓋を開けてみれば、一番よく話してくれたのは幼稚園の女の子だった。子どもにとっては、(少なくとも普段よりは)何を言っても大人が聞いてくれると感じられるような空間ができていたのではないかと思う。大人にとっては、子どもが自由に発言しているのだから、自分も構えることはないと思えるような空間だったように思う。こうした哲学対話の空間が、マンションという場所でのコミュニティ作りに少しでも寄与できるならば、非常に喜ばしいことである。最後に、貴重な対話の機会を与えてくださった関係者の方々に、心よりお礼を申し上げたい。
(報告:清水将吾)