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【報告】2013年度ハワイ大学―東京大学夏季比較哲学セミナー(9)

2013.09.29 梶谷真司, 中島隆博, 星野太, 高山花子, 東西哲学の対話的実践

いよいよ、2013年度ハワイ大学との比較哲学サマーセミナーも最後の報告になります。鳥取県・天徳寺での様子を高山さんに報告いただきました。また最後になりましたが、今回のセミナーでお世話になった方々に、UTCPより感謝の気持ちを申し上げて、報告の締めくくりとさせていただきました。

8月22日(木)の朝、いよいよ最後の目的地である天徳寺を訪れた。JR鳥取駅から車で北上すること十数分、樹々が繁茂する緑の山――久松山に連なる雁金山だろうか――を背にした場所に天徳寺は位置している。暦の上では処暑だったが、照りつける日差しは強く、夏空の下、朱色とも形容し難い赤に染められた山門が眩しかった。わたしたちを出迎えてくださったのは、永平寺で既にプログラムを共にした宮川敬之和尚だった。彼がこの寺の住職なのだ。

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スケジュールは以下の通り。一日目は本堂での朝課を経た後、宮川和尚による道元についての講義。それから地下で坐禅を行い(永平寺よりも厳しかった)、本堂で石田先生、中島先生、Ames先生によるレクチャー。大陸と日本を移動した道元の軌跡、『日本的霊性』における地方性、型破りとしての「道」といったテーマが、非常に短い時間ながら、長いセミナーの総括かのようにそれぞれ提示された。午前中同様、天徳寺坐禅会の方々も参加してくださっていたため、通訳が必要となり、絶え間なく日本語と英語が行き交った。その後、参加学生による発表。二日目も朝課の後、宮川和尚による講義。午後は参加学生による発表。朝から晩まで凝縮されためまぐるしい二日間だった。

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報告者にとって最も印象に残ったのは、宮川和尚の講義を通して、東京で読んできた道元の哲学的思考と、永平寺で体感したかのように思われた道元の実践の側面が、根底から揺り動かされながらも、別の形で再び接近するような稀有な瞬間が訪れたように思われたことである。宮川和尚は、『正法眼蔵』という書物の生成過程と道元の思想の変遷を、丹念なテクスト分析によって検証し問い直す必要性を説いた。『正法眼蔵』においては、現在の曹洞宗における実践同様、坐禅へその思想が集約されるかのように思われるのだが、永平寺へ向かう前の道元はむしろ言語の問題を強く思考しており、「直下承当」という奇跡の瞬間が、「参師問法」(師匠と弟子の間での詩のやり取り)によって起こるという独特の思考を形成していた。にもかかわらず、従来の研究ではそれが見過ごされているというのである。詳細は翌日に引き継がれたのだが、「参師問法」における言語こそが吾我の節約を可能にするというロジックが、多くの参加者にとっても難解だったからだろうか、二日目午前、石田先生によるいくつかの問いを契機とし、驚くべきことに、その場で「参師問法」を実践してくださる運びとなった。宮川和尚は「着替えてきます」といって部屋を出、法衣に身を包み、今回他寺からわざわざ参加してくださった僧侶の方と一組で、師に弟子が問いを持って「立ち向かう」緊張の場面を再現してくださったのだ。のみならず、石田先生がその弟子の立ち位置を擬して宮川和尚に挑んでゆく場面すら体現されることとなった。この場を通し、「参師問法」という場に生じる言語の生々しさにわたしたちは確かに触れた。それがいかなる言語であるのかということも、鋭く問われるべきものとしてわたしたちに残されたということができるだろう。

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こうして、約1年前に旅の終着地として思い描かれた鳥取で、セミナーの全ての行程は無事終えられた。比較哲学、あるいは東アジアの哲学への関心では繋がりながらも、個人の研究テーマではおそらく誰一人重ならない中で、ここまで親密な学問的交流の時間を過ごすことができたのは、何よりも、思考の背後に「人」がいる、というあまりにシンプルなその事実を体感することができたからなのではないだろうか、と個人的には感じた。それは、ただ目の前の先生方、友人たちの思考に迫り、対話する契機を与えられた、ということには留まらない。たとえば、それこそ、『正法眼蔵』というテクストの背後に蠢いていたであろうものへも眼差しを向けること。実践と思考の間で揺れ動いた道元の強度を最後に確かめたわたしたちは、「哲学を実践する」ということを幾多もの角度から問い直すことができたのではないだろうか。

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最後になるが、宮川和尚をはじめ、ご家族の皆様、天徳寺の方々には大変お世話になった。この場を借りて、厚く御礼を申し上げたい。

(文責:高山)

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以上、全9回のブログ連載を通じて、学生たちによる東京大学‐ハワイ大学共同比較哲学セミナー(2013年度)の報告を掲載してきた。最後になるが、教員・スタッフを代表して、今回のサマーセミナーの実施にあたってご支援・ご協力をいただいた皆様に感謝を申し上げたい。

まず何よりも、上廣倫理財団の皆様に感謝を申し上げたい。昨年同様、今回のような二大学間の大規模なサマーセミナーは、上廣倫理財団のご支援なしには到底実現しえなかった。いつもUTCPの活動に寛大なご支援をいただいていることに対して、あらためて深く感謝を申し上げる次第である。

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また、最終週の研修旅行の実施にあたっては、鈴木大拙館、西田幾多郎記念哲学館、永平寺、天徳寺の皆様に大変お世話になった。最初に訪れた金沢では、鈴木大拙および西田幾多郎の生涯や哲学について、学芸員や研究員の方々から懇切丁寧なご説明をいただいた。また、福井・永平寺での参籠にあたっては、黒柳和尚に特別なプログラムを組んでいただき、鳥取・天徳寺での研修では、宮川和尚をはじめとする皆様に何から何までお世話になった。本プログラムが充実した内容になっているとすれば、それはひとえに以上に挙げた方々のおかげである。

重ねて、東京大学の本部学務課、教養学部経理課の皆様をはじめ、大学の事務の方々にも大変お世話になった。人文科学系ではおそらく類例のない、海外の大学との三週間にわたる共同セミナーを無事に終えることができたのは、事務の方々のご協力があってのことである。また、UTCPの立石さんをはじめ、本セミナーを背後で支えてくださった皆様に深く感謝申し上げる。

今年は第二回目の共同セミナーということもあり、昨年参加したメンバーはセミナー期間中に主体的に運営のサポートをしてくれた。両大学の学生の中には昨年のセミナーで親交を深めた者も多く、このようなセミナーを継続的に実施することの重要性を強く感じた次第である。さらに、今年セミナーに初めて参加した学生も、主体的に課外活動の計画を立て、講義に関連する文献の読書会、能鑑賞、鎌倉旅行などを講義以外の時間に積極的に企画してくれた。これらの課外活動を通じて、学生たちが主体的にセミナーの運営に関わってくれたことは、予想以上の成果であったと言える。

(昨年度からの参加者のみなさん)

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この共同セミナーは、ハワイ大学のエイムズ先生、石田先生、東京大学の小林先生、中島先生、梶谷先生の長年にわたる研究交流の成果として実現したものである。参加した大学院生たちにとって今回のセミナーは――たんなる一回かぎりの交流ではない――持続的な研究者共同体を育むことがいかに重要なものであるかを実感する機会となっただろう。今回のセミナーが、より若い世代による今後の研究交流のきっかけとなることを願っている。

(文責:星野)

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