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【報告】クリスティアン・ウル氏講演会

2013.08.05 梶谷真司, 石井剛, 川村覚文, 小林康夫, 東西哲学の対話的実践

2013年7月2日、東京大学駒場キャンパス101号館研修室で、クリスティアン・ウル氏による講演、"Rethinking Science and Religion in the Modern World: Reflections on a Youtube Debate with Atheists"が開催された。ウル氏は現在ベルギーのゲント大学言語文化学部の教授として、日本と中国における近代の思想や哲学を研究・教育されている。本講演は、L1プロジェクト「東西哲学の対話的実践」主催の、Asian Philosophy Workshopシリーズの第7回目として開催されたものであり、学内外からの多くの参加者を迎えた中、発表と議論がなされた。

ウル氏は、まず初めに、この発表の目的は特定の立場に肩入れしたものではなく、宗教と科学と言った形でしばしば遂行される論争の背後にある、ある種の言語ゲーム的な構造に注目したものである、と断りをいれられた。そして、自身がYoutubeに投稿されたコメント、「科学と宗教はそもそも異なった知の領域を対象にしているのだから、神が実際にいるかどうかを客観的に証明できるか否かは、科学の問題足りえない」と、それに対して無神論を奉ずる人々が「科学的にその存在が実証できない神は否定されるべき」という認識を前提にしたコメントを投げかけることで、両者の間で交わされた議論の応酬を紹介された。

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その後、ウル氏によって自身のこのコメントは、科学でもいわんや宗教でもなく、哲学もしくは思想史に属する言明であることが指摘されたのち、このような論争がなぜ引き起こされるかということについて、その文脈を明らかにすることが試みられた。ウル氏によれば、このような論争はそもそも近代的な知の在り方(知の秩序)に特有のものであるとのことであった。この知の在り方は、歴史的にみてもともと限られた地域や文脈でのみ訴求力をもつものであったのだが、資本主義的社会編成の世界大の拡大に伴い広まっていった。このことを象徴的に示しているのが、世界各地に偏在する近代的な大学制度と、その学部編成であるのである。

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最後に、ウル氏は資本主義による近代的な知の在り方への抜き差し難い影響と、その問題点を指摘され発表を終えられた。氏によれば、近代における資本主義的な「分業労働の論理」は、知の在り方にもディシプリン間の対立という形で影響を与えており、それを超えていくことの重要性が指摘された。また、近代的な知の在り方は単に分業的であるというだけでなく、しばしば二項対立的であるということも指摘された。科学と宗教の対立もその一つであり、この対立は実はそれぞれが自己確定をするために互いに必要としている反対物、その意味で単なる反対物ではなく矛盾、であるのである。そして、この二項対立もまた資本主義的な疎外態の反映であり、それゆえ資本主義が続く限りは科学と宗教との間に典型的にみられるような論争は、繰り返され続けるであろう、とのことであった。

報告:川村覚文(UTCP)

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