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【報告】P4C x UTCP 哲学教育ワークショップ

2013.08.15 梶谷真司, 清水将吾, 土屋陽介, Philosophy for Everyone

2013年6月29日、東京大学駒場キャンパスにて、茨城大学の土屋陽介先生、兵庫県立大学の豊田光世先生、それからハワイの先生方をお迎えし、P4C(Philosophy for Children、子どものための哲学)のワークショップが開催された。お迎えしたハワイの先生方は、ハワイ大学のベン・ルーキー先生、ワイマナロ小中学校のレイチェル・コンプトン先生、カイルア高等学校のジェイク・ニコルズ先生とケイティ・バーガー先生、ワイキキ小学校のアンジェラ・キム先生とステイシー・フォン先生であった。

土屋先生には、日本でのP4Cの紹介として、埼玉県の私立開智中学校での実践をご紹介いただいた。土屋先生は、開智中学校1年生の5学級にて、「子どものための哲学」を年に15回行っている。今年度の授業目標を、「考えることを簡単にあきらめない」とし、そのための姿勢と態度を身につけることを目指しておられる。また、土屋先生が強調されるのは、「ゆっくり考える」ということである。発言することが目的ではなく、よく考えて話すことができるようになり、また、自分一人でも考えられるようになることが授業の目的である。ビデオで紹介された対話では、「子どもと大人の違いは何か」といった問いについて、生徒たちが生き生きと、探求を楽しみながら対話をしていた。

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豊田先生は、ハワイ大学への留学中にP4Cを知り、2006年にハワイのP4Cの先生方と日本の先生方との交流を始め、現在まで推進してきておられる。今回のハワイの先生方の来日も、日本各地の学校での交流が主要な目的であった。この日は、これまでの交流と、その目的や成果についてお話しいただいた。

日本の先生方がハワイを訪れる際には、ワイキキ小学校で道徳の授業の実践を行っている。また、P4Cの視察や、P4Cのワークショップの体験を行ったりもしている。そもそも豊田先生には、P4Cを道徳教育に活かすという長年のテーマがある。交流に参加される日本の先生方も、子どもが参加する形の道徳教育をしたいという思いをもってはいるが、P4Cを道徳教育へ導入するのは難しいと感じる先生が多いようだ。P4Cでは対話の結論があらかじめ決まっていないのに対し、現状の道徳教育では、教えるべき道徳的教訓が決まっているからである。しかし、日本の先生方も、P4Cの経験を重ねるうちに、そうした問題と折り合いを徐々に見つけていくようだ。

ハワイの先生方が来日された際には、日本の学校にP4Cを紹介したり、日本の学校施設を視察したりしている。その成果は非常に大きいようだ。たとえば、日本の学校にある菜園を気に入った先生は、ハワイの学校で「ガーデニング・プロジェクト」を始めたという。学校とPTAの連携に興味をもった先生は、ハワイで保護者が参加する対話を始めたそうだ。また、日本の多くの先生方と意見交換をしながら、P4Cの教育的価値を説明し、その輪を広げていくということも行われている。日本でP4Cを広めていくためには、学校の先生方に関心をもってもらうほかはないのである。そして、こうした活動を続けるには、教員どうしのネットワークも不可欠である。ハワイの先生方も、実践者としてそれぞれ不安をおもちで、互いに励ましあいながら活動している。ハワイから揃って来日するということを通して、ハワイの先生方どうしのネットワークも広がっているようだ。

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イベントの後半は、ハワイのP4Cの体験ワークショップだった。ハワイの先生方が4つにわかれ、会場に4つのミニ会場ができた。ハワイのP4Cの多くの側面を体験してもらいたいという、好意にあふれた趣向である。参加者も4つのグループにわかれ、順番に4つのセッションを体験する。以下では、それぞれのセッションを、私が体験した順番にご紹介したい。

私にとっての1つ目のセッションは、ハワイ大学のベン・ルーキー先生によるものだった。ベン先生は、P4Cを学校に根付かせるために、学校と連携して努力を続けておられる。アメリカでは教育改革はトップダウンで行われ、教師はそれに従うだけの場合が多い。そうした改革は2年ほどで別の改革に取ってかわられてしまうため、改革はあまり学校に根付かない。ベン先生は、教師自身が哲学者になり、教師が各教科でP4Cを行い、教師と生徒が学び合う関係を作っていけるよう、教師の研修を行っている。そうすることで、教師たちと協力してボトムアップの変化を起こしていけるのである。

2つ目は、ワイマナロ小中学校のレイチェル・コンプトン先生とカイルア高等学校のジェイク・ニコルズ先生による、コミュニティ・ボールを作るセッションだった。(コミュニティ・ボールとは、P4Cの対話で使われるボールである。ボールをもっている人が話し、話し終わったらほかの人に渡すというルールで使われる。)毛糸をグループで回し、自分のことを話しながら、毛糸を巻いていく。これを最初の授業で行うことにより、コミュニティの感覚や、ボールに対する愛着が生まれる。まさに、体験によってこそ伝わるものを伝えるセッションであった。また、質疑応答を通して、どのように子どもたちのコミュニティを維持していくかについてのお話も聞くことができた。

3つ目のセッションでは、カイルア高等学校のケイティ・バーガー先生が、考えるためのツールキットを紹介してくださった。よく考えるためには、理由・反対意見・前提・具体例・推論などを考える必要がある。そういったことを、わかりやすく生徒に伝え、意識させるためのツールキットがある。ケイティ先生がとくに強調するのは、推論と前提を考えることだ。推論と前提を考えるためのワークシートもあり、参加者はこのワークシートを使う体験をした。大人であっても、自分がどのような前提に基づいて推論をしたのかを自覚しておらず、ひとたび前提を自覚してみれば、それが必ずしも正しくないことに気づかされる。そうしたことを簡単に、また楽しみながらできるツールがあるということを、じかに体験して知ることができた。

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ワイキキ小学校のアンジェラ・キム先生とステイシー・フォン先生のセッションでは、P4Cの対話方法の1つである「プレーン・バニラ」について教えていただいた。「プレーン・バニラ」では、子どもたちに話したいこと、考えたい問いを出させて、対話が始まる。P4Cに慣れていない低学年の子どもたちにとっては、考えを深めていくことがなかなか難しいので、ツールキットを使って対話を進める。実際の対話では、教師が子どもの問いや考えに驚かされるのだそうだ。

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イベント後の懇親会は、素晴らしい交流の場となった。このようなイベントと交流を可能にしてくださった、上廣倫理財団、ハワイの先生方、講演者の先生方に、心よりお礼を申し上げたい。

(報告:清水将吾)

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