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梶谷真司「邂逅の記録51:延世大学との共同シンポジウム(1)」

2013.07.02 梶谷真司

6月13日(水)と14日(木)、ソウルの延世大学で行われた国際シンポジウムに参加してきた。

延世大学の国学研究院のペク・ヨンソ先生とUTCPは、毎年東京とソウルで交互に共同でシンポジウムを開催してきた。第7回目となる今年は、「共生と公共性――現場からの問い」というテーマで行われ、UTCPからは私のほかに、白先生と長年交流を続けてきた中島隆博さん、「障害の哲学」プロジェクトの石原孝二さん、駒場で英文学を教える武田将明さん、ハーバード大学に留学中で現在台湾の中央研究院に滞在中の橋本悟さんが参加。さらに特別ゲストとして、作家の平野啓一郎さんも同行した。そして私自身は、現在プロジェクトとして進めている哲学対話について報告してきた。

13日は、ペク・ヨンソ先生の基調講演「「核心現場」で見出す東アジア共生の道」から始まった。ペク氏は、日本と中国の間の沖縄をめぐる問題、韓国と北朝鮮の間の統一問題を取り上げながら、それぞれの地域に固有の歴史的社会的背景に定位しながら、その「核心現場」、そこに住む人たちの主権をどう構築していくかを、彼らの生活圏から捉えていくべきだとした。この「現場性」、言いかえれば「当事者性」は、まさにこのシンポ全体のキーワードであり、ほとんどすべての発表が何らかの仕方でこの問題を論じていた。

一日目のセッションのテーマは、「境界を横断する人文学の実践」であった。最初の発表者ム・ヨンソンさんは、国学研究院の村人文学プロジェクトについて報告した。村という共同体は、グローバル化のなかで破壊されつつも、それに対する抵抗の場となりうる。プロジェクトはこうした村において住民、とりわけ女性たちが行う育児やケア、教育など具体的な場面を通して、彼らの抱える問題、語りを私的な領域から公共化し、女性たちの権利や村の生活を再編していくという試みである。とくに注目すべきは、女性の問題に焦点を当てることで、育児、教育、環境問題が「再生産」という課題のもとに持続可能性の問題へと接続され、より普遍的なコンテクストのうちで論じられる点である。

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その後は私自身の発表で、現在UTCPで行っている哲学対話の研究会、ワークショップなどの活動を紹介し、対話型の哲学の世界的広がりの歴史的背景、その特徴、意義について話した。私の考えでは、哲学対話や哲学教育は、たんに既存の哲学を社会に普及させることではないし、応用倫理のように哲学の理論を実践的な問題に適用することでもない。それは理論の一般性からは抜け落ち、見えなくなる個別性や個人性への眼差しであり、考え、語る主体性と責任をすべての人に開いていく実践である。そしてこれまで「哲学」という"由緒ある"看板のもとでは扱えなかった新たな問題、課題を発見し、取り組む可能性を秘めた、新たな哲学運動である。

石原孝二さんの発表「障害者と当事者研究」は、UTCPで彼が行っているプロジェクトに関する報告であった。前史としての障害者の権利獲得運動、北海道浦河の「べてるの家」における当事者研究の誕生とその活動の特徴について説明があった。そこで重要なのは、病気や障害そのものについて語り、理解する権利をその当事者自身に戻すこと、また、彼らがそうした困難を取り除くことが難しくても、それとともに主体的に生きる可能性を、同様の問題を抱える人たちとともに共同で開いていくことである。

続けてディスカッションは、中島隆博さんとナ・ジョンソクさんのコメントから始められた。広い意味での宗教性(spirituality)、対話における他者性の意味、自由や平等、経済との関連など多様な論点が出された。そしていずれも、現場性、当事者性、地域性など、個別的な状況や条件においてそれらをどのように考えるのか、またそこで哲学や人文学がどのような役割を果たしうるのかという通底する問題をめぐって活発な議論がなされた。

(続く)

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