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【報告】張政遠教授講演会「3・11後の復興と哲学」

2013.06.13 石井剛, 杉谷幸太, 東西哲学の対話的実践

2013年5月9日木曜、香港中文大学の張政遠教授による「3・11後の復興と哲学」と題する講演会が、東大駒場・101号館研修室で行われた。張教授は、哲学カフェの活動を通して被災地のサポートに取り組んでおられ、今回の講演前にも、香港中文大学の教員3名と学生数名とともに被災地を訪問されている。講演は、自然と被災地での活動についての話題が中心となった。

講演は今回の被災地訪問で耳にした「心の復興」という言葉から始まった。張教授によれば、日本語の「復旧(recovery)」がライフラインなど緊急的で物質的な問題を指すのに対し、「復興(restoration)」はより哲学的で、revitalization(再活性化)とも訳しうる、新しい価値の創造を含む言葉である。一例として、仙台市若林区、荒浜の昌徳寺は、今回の津波で完全に流されてしまった。住職によれば、こうした寺はもともと檀家の共同体にとってきわめて重要な存在であったが、市役所のような政府施設ではなく復興予算が割り当てられないため、再建もままならないのだという。物質的な「復旧」や資金の問題とは別に、被災地における共同体を如何に立てなおすかが今後の課題として残っているのである。

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こうしたことは、実際に現地に出かけて行って人と会い、対話することでしか分からない。そのなかで張教授が繰り返し強調していたのは、哲学カフェや仮設住宅で出会った人々の笑顔と、福島の状況を知ってほしいという彼らの願いである。香港でも東京でも、福島と聞いて最初に思い浮かべるのは「放射能」であり、人々の持つイメージは決して良いものではない。しかし、実際に目にした福島は自然豊かで美しく、出会う人々はみなポジティブで、苦しい時期を過ごしているけれども、笑顔に溢れている。他の地域と変わらない普通の暮らしがある。こうした笑顔に触れたことで、そこに復興(revitalization)の本当の意味があるのではないかと考えさせられたという。

被災地と香港で哲学カフェを開いている張教授は、被災地の声と笑顔を東京や香港に持ち帰り、伝えていくことを今後の課題に挙げた。そして、このような哲学カフェは哲学の「新しい一章」であり、哲学を教育や思索に限定することなく、他者と向き合うことをその課題に含めていくべきである、との言葉で講演は締めくくられた。

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講演後の討論では、被災地をイメージだけで「食わず嫌い」していたこと、その「食わず嫌い」は実際に現地を見て初めて自覚できたという意見が香港中文大学の教員から出された。日本でも震災以後、「ポスト福島」「カタストロフィ」といった言葉が流行したが、それらはイメージだけが先行した議論ではなかったか、現地に目を向け、被災者の実際の気持ちに十分配慮したものだったか(東京もある意味では震災を経験したことは否定できないが)。こうしたことを考えさせられるシンポジウムであった。

(報告:杉谷幸太)

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