【報告】東カロライナ大学との共同セミナー
2013年5月24日、「Justice and Disobedience」という題のもと、ジョン・タッカー教授(東カロライナ大学、中日儒教研究)と梶谷真司准教授(UTCP)による共同セミナーが東京大学駒場キャンパスで開かれた。東カロライナ大学の学生と東京大学の学生がそれぞれ数名ずつ参加し、タッカー教授の発表を皮切りに、正義と不服従という問題について議論を交わした。
2013年2月にも黒澤明映画の儒教的解釈についてAPFで講演していただいたタッカー教授は、今回は福沢諭吉のテキストを軸としながら、背景となる儒教の伝統や、福沢が影響を受けた当時の西洋の政治思想について、大胆な見取図を描く発表を行った。福沢が問題にしている政治的な不服従について、儒教のイメージと容易には結びつかないように思えるこの概念が、伝統的な儒教のテキストからどのように読み取れるのかを検討した上で、不服従の問題を考察するにおいて影響関係にある同時代のウェーランドやソローといった思想家と福沢の距離を精査する発表は、現在我々が直面している問題にも配慮した、非常に刺激的なものだった。
以上の発表を受けて、ディスカッションが始まった。梶谷准教授の提案により、ディスカッションは、コミュニティーボール(それをもっている人が話し、次に誰に渡すかを決められるボール)を使ったP4C(Philosophy for Children)方式で進められた。参加者が1人1つ、発表にもとづいた問いを考え、「正義を他人に押し付けることはできるか」「暴力とは、どのような意味での暴力か」「市民の不服従が有効でない場合、次のステップは何か」などの問いが出された。それらの問いの相互の関連性について考え、どの問いを皆で議論するかを共に選ぶという過程を経て、最終的に「如何にして自らの正義が本当の正義であると分かるのか?」という問いが立てられた。
すると、正義は社会的な構築物なので、普遍的な正義を求めるのはナンセンスであるといった意見、苦痛の回避といった、自然によって決まるような正義もあるといった意見が提示された。それらについてそれぞれの参加者がコメントしながらより適切な正義と不服従のあり方を探ってゆくというプロセスは、それ自体が一つの小さな正義を体現するための努力といえるものであり、正義とは特定の静止した状態に留まることではなく、共通の問題関心のもと、互いへの配慮を怠らずにゆっくり前進する動きそのものであることを、改めて印象づけるものであった。
(報告者:文景楠)