Blog / ブログ

 

【報告】「ダンスと身体」シリーズ第3回「共生する身体」 山崎広太氏講演とワークショップ 

2013.05.28 内藤久義

昨年の10月からはじまった「ダンスと身体」シリーズの最終回が、2013年2月16日(土)、コンテンポラリーダンサー山崎広太さんを迎えて駒場キャンパス21KOMCEE 101室で開催された。

yamazaki%201%20%28450x300%29.jpg

「ダンスと身体」シリーズは、3名のダンサーの方がそれぞれのテーマで講演とワークショップを行うものである。ダンスの公演ではなく、ダンサーが踊ることに対してどのように自らの身体と向き合い、どのような感覚や他者との関わりにおいて作品をつくっていくのか、これをレクチャーとワークショップによって、聴衆者がダンサーと一緒に体を動かしダンスの身体と知覚にせまるという試みである。

第1回目は、山田せつ子さんに「身体と知覚」というテーマで講演とワークショップを行っていただき、第2回は木野彩子さんが「越境する身体」をテーマにレクチャーした。

最終回となる今回は、山崎広太さんをお招きして「共生する身体」について講演が行われた。世界各地で活躍する山崎さんは、舞踏を笠井叡氏、バレエを故井上博文氏に師事した。1995年より2001年までダンスカンパニーrosy Coを主宰し国内外で公演活動を行うとともに、建築家の伊東豊雄氏らとのコラボレーション作品も多く発表している。2001年からはニューヨークに拠点に移しKota Yamazaki/Fluid hug-hugを主宰する。

山崎さんはすでに、バニョレ国際振付賞(94年)、NYダンス・パフォーマンスアワード(ベッシー賞、07年)を受賞しているが、本年1月に、アフリカ・アメリカ・日本など4カ国のダンサーによる新作(glowing)の功績によりFoundation for Contemporary Artsを受賞した。

yamazaki%202%20%28450x300%29.jpg


1990年代後半、山崎さんのカンパニーは潤沢な助成金を受け、メンバーも増えていったが、同時にそのことに疑問や戸惑いも憶えたという。自身のダンスを変えたい、という思いが募りセネガルのカンパニーから作品制作の依頼があったことを契機に、まずニューヨークに渡り世界各国のダンサーと日本人ダンサーの身体性について考えたのである。

その後、アフリカで作品制作をするために来訪し、アフリカの風土にかつての日本の路地裏と同様の光景を見出す。夕暮れ時、少ない燈火のなかで次第に濃さを増す闇。まるで谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の世界をみるかのような記憶と風景がよみがえる。そして山崎さんは、『陰翳礼讃』をモチーフにした作品を制作するのである。

会場のプロジェクターには、山崎さんの主宰するダンスカンパニーFluid hug-hugのメンバーが踊る映像が流された。同じテーマのダンス作品において、日本人ダンサーとアメリカ人ダンサーが踊るバージョンと、日本人ダンサーとアフリカ人ダンサーが踊るバージョンの身体感覚、表現域の違い等が解説された。作品映像からも両者の持つ身体感覚が大きく異なることが感じられた。山崎さんはこれを「微妙な浮遊感」と表現していたが、お互いを観察することから、ダンスにおける共生が始まるのではないかと考えさせられる映像であった。

山崎さんは今後の自身の作品世界について語った。フォーサイス、マギー・マランなどのヌーヴェルダンスに接することによって、ダンスの表現領域の枠が想像以上に広いことを発見した。これまでは観客の前で裸の状態で暴力的に自分を曝け出すというようなダンスや振り付けを行ってきたが、ダンスの枠を広げることの重要性に気づいた。これが山崎さんのダンスカンパニーを作り、越境する身体にかかわるきっかけになったのである。

今後の山崎さんの作品世界は、すべてのダンス、例えば、アフリカンダンス、舞踏、バレエなど、それぞれのダンサーが持っているムーブメントを一度記号化してフラットにすることだという。フラットにしたところから、作品を作り出していく。フラットにするということは、意味がどこにも行きつかない、どこにも消化されない作品領域である。山崎さんはどこにも行きつかない身体を考えていると述べるのである。

この言葉の事例として、山崎さんは会場で短いパフォーマンスを行った。地下鉄に乗車したとき、車内で乗客の誰にも気づかれずに踊るというものである。ドアにもたれかかるような姿勢から、山崎さんの手は微細な動きを繰り返す。重心がごくわずかに移動する。言われてみなければ気づきもしない動きであるが、それは一つのダンスとして成立している。確かにダンスとしての意味性や作品としては成立しがたい側面もあるが、短いパフォーマンスにもかかわらず、会場にいた聴衆者を魅了した。

yamazaki%204%20%28450x300%29.jpg

微細な動きとは、自身の身体を見つめ、気づくことでもある。後半のワークショップでは、このイメージを取り入れた歩行や動きが行われた。これまでワークショップを行った、山田せつ子さん、木野彩子さんのワークが、参加者を二人一組にしてそれぞれの身体に触れることによって、自身の身体感覚に気づき意識を向けて行くというプログラムだったことに対して、山崎さんのワークショップでは、一人ひとりがゆっくりと歩行したり微細な動きを繰り返しながら、身体を意識化し微細な動きのダイナミズムを追求するものであった。

「ダンスと身体」シリーズは全3回をもって終了し、次回からは「記憶と身体」シリーズが始まる。身体技法・身体音楽・身体文化という三つの観点から、人々が現在まで抱いていた身体の記憶とは何なのかを探るものである。

報告:内藤久義(UTCP)

Recent Entries


  • HOME>
    • ブログ>
      • 【報告】「ダンスと身体」シリーズ第3回「共生する身体」 山崎広太氏講演とワークショップ 
↑ページの先頭へ