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【報告】Uehiro Graduate Student Philosophy Conference 2013

2013.04.20 神戸和佳子, 崎濱紗奈

2013年3月7-9日、ハワイ大学マノア校にて、Uehiro Graduate Student Philosophy Conferenceが開催された。これは、上廣倫理財団の支援を受けてハワイ大学哲学科が主催する、ひろく哲学を主題とした、大学院生のための国際学会である。今回、東京大学からは、崎濱紗奈・神戸和佳子の2名が参加・発表した。(昨年の様子はこちら→ http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2012/04/uehiro-graduate-conference/)

初日はバンケットとゲスト講演が行われたが、ユニークなのはそれに加えて、P4C in Hawaiiのメソッドを用いた交流の場が持たれたことだ。参加者の一人一人が、コミュニティーボールを回しながら自己紹介をし、自分が哲学にひかれた理由や、強く影響を受けた哲学者について、ゆっくりと語った。この場で参加者は、互いの関心や人となりについて、かなり知り合うことができた。また、この場で醸成されたintellectual safetyが、残り2日間の学会全体に広がり、議論を根底で支えているように思われた。
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神戸は、”Imagination as the source of norms: a comparative study of John McDowell and Kiyoshi Miki”と題し、アメリカの分析哲学者であるJ.マクダウェルと、三木清の比較を通じて、知覚経験の機能と性質について検討した。その上で、三木の「構想力」概念の検討から、子どもが大人になるというイニシエーションの過程(特に言語学習)を実現するものとして、子どもと大人に共通の規範産出的な能力を認めなければならないという示唆を引き出した。質疑では、自分では気づいていなかった、この発表の倫理的な含意や可能性を指摘され、今後の研究を進める上での新たな方針を得ることができた。
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崎濱は、”Beyond the past and future; how can we construct new ethics?”というタイトルで、戦後沖縄における歴史認識および主権に関する議論について検討を行った。主権をめぐる問題(独立か同化か)、そして戦争をめぐる歴史意識および倫理的問題は、それ自体沖縄特有の問題ではない。しかしいわゆる「沖縄問題」は、複雑な歴史経験からこれら二つの問題が絡み合った総体として現われているという特徴を持つ。本発表は、沖縄における代表的な言説として「反復帰論」論者および「沖縄イニシアティブ」論者のテクストを比較検討することで、問題を二者択一的に語る態度から抜け出すことを目指した。
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2人とも初めての国際学会参加であったが、intellectual safetyの保たれた、和やかな雰囲気の中で、非常によい経験をさせていただいた。矛盾や誤謬を指摘するのに、攻撃的になる必要はないし、無知を指摘されたからといって、怯える必要はない。発展的で建設的な研究活動は、信頼や好意に支えられてこそあるのだということを、この学会での経験から学ばされた。

学会が終わった後で、参加者の一人が、「ここに集まった人たちが哲学の次世代を担うんだとしたら、きっと哲学の未来は、フレンドリーで協力的で、しかも新しいパースペクティヴに溢れたものになるよね」とつぶやいていた。そんな気持ちで終えられる学会に参加できたことに感謝するとともに、本当にそんな未来が訪れるよう努めよう、と心に誓った。
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「Philosophy for Children in Hawaii」見学と「Uehiro Conference 2013」参加にわたる、ハワイ出張報告は以上となります。最後になりましたが、今回の出張を支援してくださった上廣倫理財団に、参加者一同より深く感謝申し上げます。

(神戸和佳子)

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