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【報告】P4C in Hawaii 見学(6)

2013.04.10 神戸和佳子, 崎濱紗奈, 榊原健太郎, Philosophy for Everyone

P4C in Hawaii 見学、5日目の午後は、University of Hawaii at Manoa Uehiro Academy for Philosophy and Ethics in Education(ハワイP4Cセンターの正式名称)における第一回国際セミナー(First International Seminar) が開催されました。

【First International Seminar】
第一回国際セミナーは、ハワイ大学のマノア校にあるハワイホール(Hawaii Hall)で開催された。ハワイホールは、マノア校の中でも最も古い(1912年建設の)由緒のある建物とのことであり、落ち着いた雰囲気に包まれた建物である。セミナーは、Benjamin Lukey氏(ハワイP4Cセンター)によるコーディネートのもと、総勢10名による研究発表、ならびにP4Cや哲学教育・倫理(道徳)教育などに関する意見交換や研究交流が行われた。
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<Hawaii Hall>

以下、各研究発表において特に強調された点をひろい上げながら、同セミナーの一端をお伝えしよう。

セミナーの前半、まずは、ハワイP4CセンターのAmber Makaiau氏とThomas Jackson氏(所長)の発表が行われた。
Amber氏は、「Ethnic Studies at Kailua High School」 と題した発表を行い、カイルア高校において1999年にP4Cスタイルの授業を実験的に導入し、さらに2005年にそれをEthnic Studiesの授業で本格的にカリキュラム導入した経緯とその後の展開や成果について紹介された。(P4Cスタイルの授業を導入する以前、同校にみられた)学校の荒廃したムード、人種的・民族的差別意識、文化的不寛容、暴力、麻薬、売春という問題など、そこで遭遇した困難や、それを打開したP4Cスタイルの授業による効果やその現在的評価について、幾つかポイントを絞りながら解説が与えたられた。クラスというコミュニティ内部において、まず何よりもメンバー相互において「あなたがそこにいること」「あなたがだれであるか(あなたがある物語をもった人物であるということ)」について尊重することが大事であり、これ(相互尊重)を土台に据えてはじめて「共に探究する仲間」であるというコミュニティ構造に対する、メンバー間の気づきが生まれるのだ、と強調された。

Jackson氏(ハワイP4Cセンター所長)は、「Gently Socratic Inquiry」と題した発表を行い、「Gently Socratic」というフレーズの意味を解説された。「Socratic」とは、この場合、自分が知りたい事柄を何か直言的に誰かに問いただす姿勢であり、それは、場合によっては、問われた側の人に恐怖心や不快な感情さえ引き起こしかねないものである(典型的には、「あなたにとって正義とは何だ」と対話相手に回答を迫る様なケースである)。それに対して、「Gently Socratic」とは、「自分が知りたい事柄がある」という「情熱」を(Socraticと同様に)持っている者たちが、互いの意見を尊重し合い、そして互いの意見が意味することを聴き合うことを目指す姿勢であり、それは、聴く者と聴く者とのあいだにコミュニティを生み出すものである。「Gently Socratic Inquiry」とは、こうしたコミュニティ(“Intellectual Safe community”)における共同探究(Co-Inquiry)の姿を指すものほかならない。概ねそうした内容が示された。
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続いて、P4C in Hawaii見学を私たちと共にした三氏が発表を行った。渡辺文氏は「What is the difference between Hawaii and Japan in education」と題した発表を行い、今回のP4C in Hawaii見学の経験と考察を素材として活用しながら、ハワイと日本の教育システムの相違点を比較教育学的観点から指摘された。福井駿氏は「Asking Questions and Social Understanding in Japan」と題した発表を行い、日本における小・中・高等学校の社会科教育の問題点をシステム面と教育方法面の双方から指摘し、これについての社会科学的分析を提示された。福士侑生氏は、「Philosophy for Women 」と題した発表を行い、日本において女性が哲学的活動にどのような関わり方をしてきたか(してこなかったか、できなかったか)を概観したうえで、特に(ご自身による関わりも含む)幼稚園教諭や保育士に向けた哲学的な観点からの教育支援活動を具体的に示しながら、今後の社会における哲学的活動への参画形態の可能性を展望された。

セミナーの後半は、まずはUTCPからの参加者による発表に始まった。神戸・崎濱が「Philosophy for Everyone」、榊原が「AAE and P4C」と題する発表をそれぞれ行なった。神戸・崎濱による「Philosophy for Everyone」の発表では、P4E(Philosophy for Everyone)の成立、P4Eの諸活動、P4Eの展望、という3つのトピックスを順に説明した。P4E の成立については、その端緒が(UTCP梶谷・神戸による昨年8月の)P4C in Hawaiiとの出会いとそのインパクトにあること。そしてそのインパクトの中心が、“Slow Education(「ゆっくり時間をかけて身に付ける力」への教育的視点)”“Reasoning(「なぜ?」を大切にしながら養成する確かな思考力)”“Importance of “Safety”(哲学探究こそがコミュニティ形成の鍵になるという発見)”にあること。「哲学」は、学術関係者の専有物ではなく、また子どもたちだけに向けられるものでもなく、「すべてのひと」に開かれたものである、という「P4E」の基本アイデアなどを示した。P4Eの諸活動については、日本における(先駆的)哲学プラクティスについての勉強会、講演&ワークショップの開催、(国際哲学オリンピックへの参加を目指す高校生に対するトレーニングを含めた)高校生むけの哲学トレーニング合宿などを紹介した。そしてP4Eの展望については、(学術的哲学研究と哲学プラクティスとの関係性の明確化など)P4Eメソッドの洗練・確立化の必要性、P4Eのファシリテーターの養成、P4E組織・ネットワークの拡充化などについて提示した。また、P4Eの理念の再確認と、P4C in Hawaiiとの研究・実践・交流における連携希望を表した。
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榊原による「AAE and P4C」の発表では、日本におけるP4Cスタイル的な活動事例の案内として、(榊原が)勤務する大学における「動物介在教育(Animal Assisted Education:AAE)」活動におけるP4C的側面について紹介した。AAE とは何か、AAE諸活動、AAE の展望、という3つのトピックスを順に説明した。AAE とは何かについては、動物を介在させる活動は、一般に、医療的アプローチ(乗馬療法など)と教育的アプローチ(動物ふれあい教室など)の二つに区分して扱うことができること。そして、後者(教育的アプローチ)に属するものが、今回紹介する Animal Assisted Education(AAE:動物介在教育)であることなどを示した。AAE諸活動については、「動物ふれあい教室」を取り上げ、これが大学の専門学科で動物について学ぶ学生が動物たちを連れて(主に)地域の小学校へ訪問する活動を指すものであること。また、学生たちがファシリテーターとなって、小学生たちに向けて、動物に関する基礎知識をレクチャーしたり動物の扱い方について実践を交えながらおしえたりする内容であることなどを紹介した。こうした教室の片隅で小学生の子どもたちが学生たちにむけて問う、(例えば)“Why was this dog born as a dog ? (どうしてイヌはイヌなの?) ”“Why does the animal not talk ? (どうして動物はしゃべらないの?)”といった(小学生なりの)「疑問」には、自分と異なる存在への共感的理解の基盤として、ないし思索・探究の芽としての「Philosophicalな(哲学的な)」内容が見てとることができること。一方、こうした問いを真摯に受け止める姿勢を養うこと自体が、ファシリテーターである学生たち自身が自らの哲学的素地の場所を発見してゆくことであることなどを指摘した。AAE の展望については、AAE活動が働きかけている(共感的理解など)「感性」教育の支援対象を、(子どもだけではなく)「すべてのひとに(for Everyone)」へ開く方法へ目を向けることなどを表明した。
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続いて、豊田光世氏が「Cultivating Environmentally Autonomous Communities: The Power of Democratic Inquiry」と題した発表を行い、(ご自身の研究と実践のフィールドである)新潟県の佐渡島におけるトキの野生復帰事業にまつわる市民参加や合意形成のあり方の具体事例を通して、自治コミュニティづくりに関して基軸となる視点が紹介された。また、地域コミュニティにおける合意形成のプロセスにおいてP4Cが貢献するポイントは数多くあること(例えば“相手の話を聴く”、“コミュニティの形成”など)が様々な実例(加茂湖の水辺再生プロジェクトなど)ともに示された。

最後は、Chad Miller氏(ハワイP4Cセンター)による「Five Steps to Transform Education」と題する発表が行われた。(現代において)私たちが本当に必要としていることの一つは、学校教育についてもう一度集中して焦点を合わせることである。学校教育に求められていることは、民主的な社会における道義的態度をもった市民を生み出すことであって、決して学校のシステムや教師たちにとって都合のよい受験生を生み出すことなどではないのである。教育の様々なデザインを変えて行く際の揺るぎない視点をそのように表明したChad氏に対して、参加者たちから惜しみない賛同の声が寄せられたところで、同セミナーは終了を迎えた。
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<記念撮影>

【謝辞】
「P4C in Hawaii 見学」に関する報告は以上です。ここで改めて、私どものP4C in Hawaii 見学を迎え入れてくだったハワイP4Cセンターの所長Jackson先生、そしてBenjamin先生、Amber先生、Chad先生に感謝の意を表したく思います。上廣倫理財団による当見学や当交流をめぐる様々な支援に深謝いたします。

(榊原健太郎)

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