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【報告】P4C in Hawaii 見学(2)

2013.03.26 神戸和佳子, 崎濱紗奈, 榊原健太郎, Philosophy for Everyone

P4C in Hawaii 見学、3日目は、ベテラン校のカイルア高校とは少し違った雰囲気の、ワイマナロ小・中学校を訪問しました。

【3月5日 ワイマナロ小・中学校】
ハワイ滞在3日目、一行はBenさんの運転する車に乗って、ワイマナロという地域へ向かった。道すがらBenさんから、ワイマナロはネイティブ・ハワイアンが自らの文化を守るために土地を確保して作った居住区であることを聞いた。経済的には比較的貧しいが、独特の文化意識を強烈に持っているという。沖縄研究を自らの領域とする私にとって、非常に興味深い話であるので、ワイマナロ小・中学校でP4Cがどのように導入されているのかしっかり見て来ようと思った。カイルア高校とは違って、ワイマナロ小・中学校はP4Cが導入されてまだ間もないという。成熟したP4Cと、未熟なP4Cの両方を見比べてみてほしい、というBenさんの計らいが背景にはあって、そういう意味でもこの学校の見学は、私にとって興味深いものだった。
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<ワイマナロ小・中学校>

最初に見学したのは2年生のクラスで、日本で言えば「生活科」にあたるような授業を見学した。教室で青虫のときから蝶を飼育しているようで、蝶について疑問に思うことをP4Cスタイルで話し合った。とにかく賑やかで、子供たちは思い思いに自分の考えを発表していた。「蝶々の羽の模様はどのようにして決まるのか」という問いに対して、「青虫のときから模様が決まっている」「片方の羽に模様が出来て、それがもう一方の羽にプリントされる」「羽のパウダーに触れると模様が浮かび上がる」など、たくさんの応答がなされる中、「どうして羽の模様は左右対称なのか」や「羽のパウダーはどのような働きをするのか」など、新たな疑問も多く出された。このように、一つの問いから出発して、次の問いへと発展していく生き生きとした様子を、このクラスでは体感することができた。
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<授業中の様子>

脳性麻痺のため、コミュニティボールを受け取ったり投げたりすることができない子もいたが、隣に座った子がボール係を進んで申し出ていた。また、ほとんど口を開かなかったり、控え目にしかしゃべらなかったりする子もいたが、よく発言する子たちはそのような子たちに対して注意を払っていた。注意を払うといっても、彼らに発言を強要するのではない。彼らが議論の枠外に外されていないかどうか、気遣いを見せている、と言えばよいだろうか。”Intellectual Safety”がしっかり機能しているクラスだと実感した。
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<授業後の記念撮影>

しかし、次に見学した8年生の国語のクラスでは、重々しい空気が流れた。討議された問いは「文化的自覚(cultural awareness)は、世界や社会をより良くすることにつながるか」という、大変難しいものだった。私にとっても大変アクチュアルな問題だったので、訪問者という立場を忘れて考え込んでしまった。
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<ホワイトボードに書かれた問い>

幾人かの男子生徒が活発に手を挙げるも、ほとんどの生徒が落書きをするか、ぼんやり空を見つめている。議論が停滞してしまったので、途中で先生が介入して「文化的多様性は大切である、Yes or No?」という問いを投げかけた。すると全ての生徒が「Yes」と答えたが、「because…」のあとが続かず沈黙が流れた。しかし皆が「Yes」と答えた中、Benさんが「Yes, but…」という答え方をしたことで、議論が次の段階へと開かれた。

【二つの学校の見学を終えて】
P4C見学全行程を終えて改めて感じたことであるが、Benさんがおっしゃった「Yes, but...」(あるいは「No, but…」)という応答を可能にする思考法こそ、P4Cを通して獲得することができる能力なのではないか、と感じた。円形に座り、P4Cスタイルで討議することは、他者の意見に対して常に耳傾けることを半ば強制的に義務付ける。このとき、自分の意見だけを主張しても、議論は外に開かれない。そこで必要とされるのは、他の可能性を考慮しながら、自らの立場を明確に言語化することである。そのとき、「Yes」「No」では掬いきれない、間に漂う領域を言語化する能力を身につけるチャンスを手にすることができるのだ。
この能力はおそらく、授業の中だけではなく学校を離れたところで差し迫った問いを突き付けられたとき、自ら問題を捉え思考し、議論する際に役立つ。もちろん、「Yes, but」「No, but」と思考した上で、「Yes or No」の問いを再度突きつけられることもあるだろう。それでもきっと、「Yes, but」の先に選びとられた「Yes」は、はじめから「Yes」一辺倒の「Yes」よりも、意見の異なる者同士が共に生きる可能性を開く力を持つだろう。「Yes, but」「No, but」式の思考法を通して、他人の意見に耳を傾け、意見が異なる者との間にも対話を開く姿勢を身につける。アクチュアルな問題を抱え、そこから逃げずに問題を真正面から捉える中でP4Cは生まれ、育っている――これが、カイルア高校・ワイマナロ小中学校の見学から私が感じたことである。

(崎濱紗奈)

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