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梶谷真司「邂逅の記録37: P4E(Philosophy for Everyone)への道(7) 」

2013.01.08 梶谷真司, Philosophy for Everyone

《IPOから哲学サマーキャンプへ》

IPO(国際哲学オリンピック)そのものについての説明、および、昨年の5月にノルウェーのオスロで行われた世界大会の様子については、以前にブログで詳しく報告した。

【邂逅の記録】(2)~(7)
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2012/06/post-523/
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2012/06/post-527/
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2012/06/post-528/
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2012/07/post-530/
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2012/07/post-531/
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2012/07/post-533/

そこでも述べたように、現在上廣倫理財団がIPO関連の事業を全面的にバックアップしている関係で、UTCPもそこに様々な形で協力することになった。その最初が世界大会への同行であり、これが直接のきっかけとなって、哲学教育をUTCPの活動として推進することになった。そしてオリンピックの「選手養成」のためにまず提案したのが「合宿」である。それも夏、冬、春と年3回やることにした。そこで私がしようと思ったのは、「思考の方法」を教えることである。
かくして今年の8月22日(水)と23日(木)、二日にわたって「高校生のための哲学サマーキャンプ」を開催した。一日目は、まずオリンピックと同様の形式で、4種類の異なるジャンルの哲学書の一節から一つ選び、それに関連してエッセイを書くという課題をやってもらった(本番では英語だが、ここでは日本語で)。それで書いたものをチューター役の大学院生の助けを借りて分析し、問い、定義、根拠、事例、結論などの要素を見つけ出し、その順番、構成、余分なもの、足りないものがないか考えてもらう。
その後、今度は、分析によって抽出・補完した諸々の要素を取捨選択してエッセイを再構成し、それを発表する。こうして高校生たちは、自分がいつも通り書いたときと、明確な方法をもって書いた時の違いを、身をもって体験する。それはたんに文章が良くなったというレベルの話ではない。普通に書いていたら考えもしなかったことを考え、より緻密で筋道立てて考えるということ、そしてその上で文章を書くという初めての経験である。
二日目は、同様のことを別の課題文を使って、3~4人のグループでやってもらった。複数の人の意見・視点が入ることにより、一人で考えるよりも議論に幅が出てくる。他方で、議論をまとめるのが難しくなる。自分とは異なる考えに耳を傾け、自分を開き、受け止める。そうすると議論は時に紛糾し、方向を見失う。それでも、一日目にやったように、問い、定義、根拠、事例、結論といった議論のパーツを見つけ、それを組み立てていく。その後、グループごとにプレゼンをして、ディスカッションをする。その時も議論の要素に着目して、互いに質問をし、答えていく。
もちろんこうしたプロセスがわずか2日でうまくできるようになるわけではない。しかし、高校生たちは、考える時、書く時にどういうことが必要なのか、何に注意すればいいのかを知る。そして自分たちが今までいかに考えていなかったか、いかに安易に書いていたかを知る。あとで出してもらったアンケートでは、キャンプでやったことが、初めての特別な体験であったこと、自分で、みなで経験した思考と議論の深みのことがつづられていた。
このキャンプの二日間は、私たちUTCPのスタッフ、チューターとして協力してくれた院生たちにとっても、感動と興奮に満ちていた。「思考の方法」は、高校生でも十分学ぶことができる。そしてその場にいることで、私たち自身も思考を刺激され、深化させられた。今年は一回目だったので、手探りの部分もあったし、終わってみて改善点もたくさん出て来た。だが、この方向に進んでいけば、着実な成果を出していける、そこからいろんなものを生み出していける──この可能性について、合宿を通じて自信と確信を得ることができた。

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