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【報告】ダンスと身体シリーズ第2回「越境する身体」木野彩子氏講演&ワークショップ

2013.01.09 内藤久義

 2012年12月9日、駒場キャンパスコミュニケーションプラザ・身体運動実習室で、ダンスと身体シリーズの第2回目「越境する身体」の講演会が行われた。

「ダンスと身体」シリーズは、3名のダンサーにそれぞれのテーマでレクチャーとワークショップを行ってもらい、話に耳を傾けるだけではなく、聴衆者も自身の身体を動かし積極的に参加するワークショップが付随する講演会である。

 第1回目は、コンテンポラリーダンサーの山田せつ子さんに、「身体と知覚」というテーマで講演とワークショップを行っていただいた。この回では、ダンサーは踊る身体をどのように知覚し、作品づくりにおいてどのように向き合っているのかという関心から始まり、1970年代の学生運動を背景とし、山田さんが舞踏の世界に入っていく過程や、新たなダンスコードの創出など興味深い話とワークショップが行われた。

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 今回、講演した木野彩子さんは、3歳からモダンダンスを始め、大学でも舞踊教育を専攻し、また多くのワークショップで学んでいる。木野さんの訓練された身体と長い手足は広い表現領域を持ち、その評価の一つとして、2003年「Yokohama solo duo competition 2003」で横浜市文化振興財団賞、2004年には文化庁在外派遣研修員としてフランスで研修後、イギリスに渡りRussell Maliphant Companyのダンサーとして活躍してきた。帰国後は、自身の公演だけでなく、コンペティションや音楽家・美術家とのコラボレーションも積極的に行っている。

 木野さんの作品は自身の内面をほの見るような、従来のモダンダンスではテーマとされにくかった精神の奥の揺らぎを追求しようとしているように見える。微細な動きや踊りの中での〈行間〉ともいえるわずかな間合いなど、外に向かっていこうとする強い身体性を封印して、自分の内面に向き合おうとする。この身体と心、変化していくダンススタイルが、今回のテーマである「越境する身体」を解明するファクターとなっているのではないだろうか。
 
 主要な木野さんの作品映像をまじえて、「越境する身体」について第一部の講演が始まった。会場のスクリーンには、国内外で木野さんが踊りと振り付けを行ったダンス作品の映像が流され、各作品の成り立ちや背景が語られ、作品構成における空間や照明の重要性が指摘された。
「Edge」(2003年)という作品では真っ暗な舞台空間を照明で小さく四角に切り取り、その規定された空間の中で濃密なダンスが展開されていく。照明の四角いフレームはじょじょに狭まり、ダンサーの身体はアウトフレームされるであろうと期待する観客の思惑を裏切り、ダンスはどんどんインナースペースへと入り込む。

「箱女」(2004年)は舞台上にスチールロッカー(掃除用具入れ)が一つ置かれ、その中でダンサーである木野さんは踊り続ける。ロッカーの扉から手や足はときおり見えるが、全身がロッカーから出てくることはない。本来のダンスパフォーマンスのスタイルである、見る側と見られる側の関係性が曖昧になり、やがて観客はロッカーの中に存在するダンサーについて、視覚ではなく想念から捉えようとする。見るダンスから思考するダンスへと意識が変容していく。これらの作品にも身体を越境しようとする試みが感じられるのである。

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 第二部ではワークショップが行われた。イスの取り払われた会場で、木野さんの指導のもと聴衆者が二人一組となり、マッサージとストレッチが始まった。ストレッチの間にも、身体のどの部分を伸ばすとどの筋肉がゆるみ開放されていくといった解説が付される。そして全員一列になり、極度にゆっくりと歩行するワークが行われた。これは、ことばによるイメージを利用することにより、身体の知覚がどのように変化していくか、ふだんの生活の中で行っている運動の中に、自分の知らない身体があることに気づくためのものだという。

 ワーク終了後に、木野さんによるソロダンスが踊られ、最後はフリートークが行われた。今回の聴衆者は、コンテンポラリーダンサー、劇団員、会社員、学生、研究者など多様な職種の方たちで、フリートークでの発言からも、ダンスが劇場の舞台で観るだけのものではなく、さまざまな場において、その身体性を社会や生活の場へ取り込んでいこうとしていると感じた。

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 次回(第3回目)の「ダンスと身体」シリーズは、2月16日(土)、「共生する身体」をテーマに、ニューヨークを拠点に世界各地で活躍するコンテンポラリーダンサー山崎広太さんの講演とワークショップが開催される。

(報告:内藤久義)

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