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【報告】東京大学−ハワイ大学夏季比較思想セミナー(7)

2012.09.20 梶谷真司, 中島隆博, 文景楠, 高山花子, 神戸和佳子, 崎濱紗奈, 芮雪, 川瀬和也, 田村未希, 東西哲学の対話的実践

セミナーも残り2日となりました。セミナー参加者はずいぶん打ち解け、距離もだいぶ縮まったように思いました。

8月16日

午前中は石田正人先生の最後の授業でした。今回は個と普遍の関係がテーマでした。前回の授業で、西田にとって善とは「理に従うこと」であるということが論じられましたが、その際、理(つまり、理性の法則)と個人はどのような関係にあるのか、ということが問題であったからです。この点に関して、西田は道家の「天人合一」という思想に近い立場に立っていると石田先生は指摘します。つまり、普遍は個と独立に存在しているのではなく、個を通じて普遍者が具体的に実現する、ということです。西田哲学の内にはスピノザ・ヘーゲル的な西洋哲学の一つの伝統的な思考を見ることができ、さらに道家的な要素も同居しているため、その思想背景を解きほぐしつつ西田哲学の全貌を理解するためには膨大に勉強しなければいけないことがありますが、石田先生の授業を通じてやっとその入り口に立つことができたように思います。

午後は参加者によるプレゼンテーションが行われました。プレゼンテーションの趣旨は、今回のセミナーの集大成として参加者それぞれがこのセミナーを通じて考えたことを踏まえつつ、自らの関心に基づいて自由に問題提起し、議論するというものです。発表の主題は、小林康夫先生の基調講演の内容を敷衍するもの、キルケゴールの『畏れと慄き』と川端康成を結び付けて論じるもの、また今回のセミナーのポイントの一つであった哲学・思想などを解釈する上での文脈を理解するための出発点をいかに設定するかという問題を扱うものまで多岐に渡っており、いずれも興味深いものでした。この日、東大からの参加者では芮雪さん、文景楠さん、私田村が発表しました。芮雪さんは、主に「家族」の概念に今回のセミナーでの関心が集中していたという点を指摘し、同等に重要な側面として、儒教の「政治学」にも目を向ける必要があると強調しました。文さんは、エイムズ先生による本質主義の標本としてのアリストテレス解釈に異を唱え、少なくとも倫理学においてアリストテレスは本質主義といえるような主張はしていないということを、彼の形而上学との関連から指摘しました。田村は孔子の関係的な自己概念とハイデガーの自己概念の比較というテーマで発表しました。

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<発表の様子>

8月17日

授業最終日。午前中は、昨日に引き続き、参加者によるプレゼンテーションと質疑応答が行われました。この日は、東大からの参加者では神戸和佳子さん、崎濱紗奈さん、高山花子さん、川瀬和也さんが発表しました。神戸さんは、人間の捉え方に関して実体主義的観点と関係主義的観点の間の立場を取る三木清の個性論について発表しました。崎濱さんは今回のセミナー中に行ったフィールドワークを生かして沖縄とハワイの類似性について発表しました。高山さんは、ご自身の修論のテーマでもある、想像を超えたものをいかに想像することができるのか、という問題について発表しました。川瀬さんは西田、カント、ヘーゲルに言及しつつ、規範が持つ歴史性について論じました。この他の参加者は、マキャベリズムと中国哲学の比較、西田とメルロ=ポンティの身体概念、道家思想の諸相を考察するものなど前日に引き続き比較哲学的な観点から様々な問題を論じていました。どの参加者の発表も刺激的で、また質疑応答の中で問いが深まる瞬間が幾度もありました。

この日は午後の授業がなかったため、東大からの参加者は翌日の帰国に向けて荷造りをしたりして過ごしました。夕方、エイムズ先生が参加者全員をご自宅に招いて、ホームパーティを開いてくださいました。エイムズ先生のお宅は小高い丘陵地にある住宅街の一角で、山と海を両方眺めることができる絶好のロケーションでした。参加者たちはテラスにあるテーブルで寛ぎながら会話を楽しんでいました。また、エイムズ先生の奥様、ご子息、そしてエイムズ先生ご自身が手作りのお料理を振舞ってくださいました。野菜をふんだんに取り入れたマリネやクスクス、サーモンのグリルなど、ホテルのビュッフェのような美味しいお料理でした。お料理をいただきながら、今回のセミナーを振り返ったり、ハワイ大の参加者の方々と記念撮影をしたり、セミナーの最後に素晴らしい思い出ができました。

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<エイムズ先生のお宅での写真>

8月18日

朝7時過ぎにリンカーンホールを出発し、空港に向かいました。リンカーンホールにはハワイ大からの参加者のYu Jingがお見送りに来てくれました。名残惜しさは募る一方ですが、来年のセミナーでまたハワイ大(及びその他の大学からの参加者)の皆さんにお会いできることを願いつつ、帰国の途に就きました。帰りの飛行機の中、さすがに皆少し疲れた様子でしたが、3週間のセミナーを心から楽しんで、また、確かに成果があったという充実感に満ちている様子でした。

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<3週間お世話になったリンカーンホール>

(報告:田村未希)

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