梶谷真司「邂逅の記録4:国際哲学オリンピック2012 オスロ大会 視察報告(3)」
5月15日(火) オスロへ。事前資料に驚愕
午前11時に成田発。オスロへの直行便はなく、ヘルシンキでトランジットをして、現地の午後6時半ごろに到着。フライトはすべて予定通り。移動中、今回のホスト役であるノルウェーのThor Steinar Grødal氏から数日前に送られてきた資料に目を通した(出発前にも少し見たが、Grødal氏が道中読んでくれとメールで書いていたので、楽しみに取っておいた)。
その資料というのは、哲学オリンピックをめぐる各国での状況に関するメールアンケートへの回答で、応募者の数、選抜方法、IPOが国内の哲学・思想教育に与える影響などについて、Grødal氏が参加国の委員に問い合わせたらしい。IPOへの参加度、関心、取り組みは、国によってずいぶん差がある。そのことじたいは当たり前と言えば当たり前だが、実際に資料を見て、幾度となく衝撃を受けた。
国内予選の応募者がもっとも多いのはアルゼンチンで、130校から何と4,225人余りが応募。ドイツとメキシコ、ポーランド、ルーマニアがおおむね同じくらいで1000人ほど。オーストリアが600人、クロアチアが518人、モンテネグロが450人、チェコが202人。ここ数年の数では、トルコが400~500人、ハンガリーが250~300人という幅で報告している。ちなみに今年の開催国であるノルウェーは100人の応募があったらしい。
対して日本は今年34人の応募者から選抜。似たような数で親近感を覚えるのは、エストニアの32人、スペインの30人、グアテマラの27人、イスラエルの26人、デンマークとギリシャの20人である。哲学発祥のギリシャに少し優っているというのは、喜ぶべきことなのだろうか。もちろんさらに少ない国もある。セルビアが13人、マケドニアが12人、ベルギーが11人、アメリカが10人。これは慰めになるのだろうか。参考までに述べておくと、アジア諸国はインドが140人、韓国が例年70~80人(スイスも80人)。中国は応募者数を報告していないので不明。
このような数をどう受け止めればよいのだろうか。政府や公的な組織が協力している国もあるが、応募者数との相関関係はさほどあるようには見えない。高校に哲学・倫理の授業があるかどうかも、すべての国が回答で述べているわけではないので、何とも言えないが、応募の数と比例関係にあるというほどではなさそうだ。つまり制度的な土台がないことじたいは、応募者が少ないことの言い訳にはならないのである。
しかし社会全体での関心度の高さはやはり重要であろう。例えばトルコでは、IPOのためだけでなく、いくつも哲学関連のコンペティションがあり、サマーキャンプも複数開催されているようで、哲学への関心が広く共有されている。回答では必ずしも言及されていないが、応募者数が多い国では、同様の傾向があると推察される。そしてはっきりしているのは、多くの国がIPOへの参加が国内の哲学教育の普及にいい影響を及ぼしていると答えている点である。日本では、少なくとも今までは、残念ながらそういう形になっていない。今後それが徐々にでも変わるといいのだが(というか、それがUTCPの役目でもある)、問題は、IPOへの参加をどのように社会にフィードバックするかだろう。
この日は、軽く夕食をとって早く休みたかったので、ハンバーガーを食べた。3つある大きさのハンバーガーのうち、一番小さいものと、ポテトと飲み物のセットで1800円。オスロは高いと聞いていたが、いきなりの洗礼だった。