【UTCP on the Road】小泉順也
中期教育プログラム「イメージ研究の再構築」を中心に、2009年10月から2年半のあいだ、特任研究員としてUTCPに携わりました。グローバルCOEとしての活動が区切りを迎えるなかで、思うところを綴ってみます。
初めに、個人的な体験を語ることをお許しください。UTCPに所属するようになる直前の2009年夏、著名な研究者を海外から招聘したセミナーで、レスポンダントとして発表する機会をいただきました。フランス語で10分ほど話をしただけでしたが、終わったときには憔悴しきっていたことを、今でも覚えています。発表の内容云々というよりは、緊張ゆえに周りに目を向ける余裕はなく、正直なところ、本当の意味で相手と向き合おうとする気持ちも欠いていたように思います。
それから数か月して、UTCPを中心に回っていく生活が始まりました。より正確には「巻き込まれた」、あるいは「放り込まれた」という方が、実際の感覚に近いかもしれません。直前に迫ったセミナーの準備もままならないのに、来月の海外研究者の招聘が決まってしまうような事態を迎えて、以前と比べれば美術館に足を運ぶことも少なくなり、自分の研究に専念できる時間は確実に減りました。さらに、次々に開催される各種のイベントは、研究上の刺激や発想をもたらしてくれたものの、当初はそれを消化して、自分のなかに取り込むまでには至らなかったのです。
それまでは無意識に、考えてから行動するといった手順を踏むのが、なかば習慣になっていたように思います。もちろん研究においては、ときに慎重な姿勢が求められ、無為と思えるような時間や心のゆとりも断じて必要なのですが、新たな現実に対処するなかで、動きながら考える、話しながら構想を練る、その場でわずかでも吸収するといったプロセスへと変化していきました。
あらためて述べるまでもなく、それぞれの一連の行為はつながっており、別個の作業として、完全に切り離して捉える方が不自然でしょう。動いて考え、話して聞いて、読んで書くという研究者の基本的な所作は、言葉にしてしまえば当たり前のことを並べているに過ぎません。しかしながら、振り返ってみると、私にとってのUTCPとは、身体感覚を通してアカデミックなスキルを学び、それを少しでも身に付けるための実践的な「場」でありました。
そこでは、多くの課題を抱えながらも、反射神経とでも形容できるような俊敏性と身軽さが求められました。慌ただしく動き回るなかで、いつしか日常と非日常の境界はあいまいになり、「場」を通して作られたネットワークのなかで、自分が外の世界と緩やかにつながっている感覚に包まれていったのです。
そして、これまでにない頻度で人と会い、深いレベルで対話のできる相手が身近に、あるいは世界のどこかにいることを知ったとき、研究を続けることに対する確かな信頼が芽生えたように思います。こうしたUTCPの実験的な試みが、今後もひとつのモデルとして参照され、新たな拠点を含めた複数の場所に引き継がれていくことを、切に願っています。
末尾ながら、「イメージ研究の再構築」の事業担当推進者である三浦篤先生、拠点リーダーの小林康夫先生、事務局長の中島隆博先生をはじめ、多くの先生方、事務局の立石はなさん、そして、畏友と呼ぶべき研究員の皆さんに、心からの感謝を申し上げます。また、各種の活動に協力いただいた方々、足を運んでいただいた方々のことも忘れてはおりません。新たな研究の進展と成果を携えて、再びお会いできれば幸いです。
小泉順也のUTCPでの活動履歴→こちら