Blog / ブログ

 

【報告】アンヌ=マリー・クリスタン講演会「L’art au regard de l’écriture」

2012.02.26 小泉順也, セミナー・講演会

2011年10月7日、コラボレーションルーム3でアンヌ=マリー・クリスタン氏による「L’art au regard de l’écriture」と題したフランス語の講演会が開催された。

パリ第七大学名誉教授であるクリスタン氏は、同大学に所属している「エクリチュールおよびイメージの研究センター」の創設者であり、現在も同機関の共同センター長を務めておられる。日本にもたびたび招聘されており、UTCPとの関わりにおいては、2003年に開催された国際シンポジウム「 バルト・共感覚の地平」に、パネリストとしてご登壇いただいた。多くの日本人の学生や研究者が彼女の下で指導を受け、学恩に浴していることは忘れてならないだろう。

Christan-1.JPG
【アンヌ=マリー・クリスタン氏】

まずは今回の報告が遅れたことをお詫びしなくてはならない。思い返せば銀杏並木も色付いていた時期であり、樹木が映える快晴のもとを会場までご案内したのであった。とはいえ、本郷の宿舎から駒場までのアテンド役は事前にお引き受けしていたものの、発表前の雑談のなかで、突然、拠点リーダーから報告者は司会を仰せつかることになった。参加する以上はぼんやりせず、相手に応答することを常に意識して臨んでほしいとの教育的配慮からである。

Christin-33.JPG

講演会は古代から同時代までを含む広範な時代と、西洋と東洋の垣根を越えた各地の作例を自在に操りながら、エクリチュールとイメージ、あるいは文字と図像のあいだの多様な関係を見せていただく機会となった。あるいは、現代のように両者の明確な区別が生まれていない、渾然一体となった創造の領域が対象であったと言い換えてもいいかもしれない。木版で刷られた江戸期の書物に言及があったり、最後に葦手について触れた質問が出たりしたのは、当然の展開であっただろう。

その内容は人間が生み出した造形世界をあまねく視野に収めようとしている点で、実に刺激的な試みであった。しかしながら、それは一人の研究者で成し遂げられる仕事ではなく、必然的に国境を越えた研究者のネットワークを必要とする。講演会の全体を通して、パリに集まる留学生や研究者との対話のなかで育まれた、クリスタン氏の広大な研究領域を垣間見る思いがした。そのような視野を備えた研究者は稀有であり、いつも新鮮な発見のなかで研究を続けておられる姿が伝わってきたのである。

Christin-4.JPG

報告者にとっては、懇親会に場所を移したあとの会話も強く印象に残っている。研究テーマに取り掛かったきっかけに話題が及んだとき、19世紀のフランスに活動したウジェーヌ・フロマンタン(1820–1876)の研究を始めたのは、偶然にも新資料を発見したからであると述懐されていた。フロマンタンはオリエンタリスム絵画の著名な画家で、当地に滞在した折の旅行記や小説、美術批評までを手がける作家であった。個別研究を出発点として、研究が面となって広がっていく過程については、クリスタン氏の多くの業績をたどるなかで確認できるはずである。

今回の日本滞在は、直後に刊行された L’invention de la figure の校正を終えられたばかりの時期であった。ご報告が遅れたのは申し訳ない限りであるが、クリスタン氏のその後の研究成果をあわせてお伝えできたのは、せめてもの幸いである。

christan-5.jpg

(PD研究員 小泉順也)

Recent Entries


  • HOME>
    • ブログ>
      • 【報告】アンヌ=マリー・クリスタン講演会「L’art au regard de l’écriture」
↑ページの先頭へ