【刊行】臼杵陽監修、赤尾光春・早尾貴紀編『シオニズムの解剖』(人文書院)
共同研究員の早尾貴紀も編者・執筆者となった『シオニズムの解剖——現代ユダヤ世界におけるディアスポラとイスラエルの相克』(人文書院)が刊行されました。シオニズムに関する日本語圏での初めての総合的な論集です。
【目次】
序章 シオニズムを解剖する(赤尾光春・早尾貴紀)
Ⅰ 帝国の衰退とユダヤ政治の展開
忘れられた世代と場所 鶴見太郎
「イディッシュ労働者」運動としてのブンド 西村木綿
民族自治から主権国家へ 森まり子
Ⅱ ホロコーストからイスラエル建国へ
アメリカ・ユダヤ人とシオニズム 池田有日子
カタストロフィ・シオニズム 野村真理
Ⅲ ナクバという遺産
国家の起源にどう向き合うか 金城美幸
〈イスラエルの原罪〉を書けるか 村田靖子
Ⅳ 入植のエートスとイデオロギー
一〇〇度目の流刑地としてのエレツ・イスラエル 赤尾光春
死と贖いの文化――フロンティアのメシア主義者 今野泰三
Ⅴ ユダヤ文化産業におけるヘゲモニーとカウンター・ヘゲモニー
シオニズムの映画的表象 四方田犬彦
クレズマーはシオニズム(と資本主義)に抵抗するか? 平井玄
Ⅵ 現代思想とイスラエル問題
バイナショナリズムの思想史的意義 早尾貴紀
現代思想におけるシオニズムと反シオニズム 合田正人
終章 日本におけるシオニズムへの関心の端緒 臼杵陽
(序章より)
近年、ユダヤ人の歴史や文化に関する研究は日本でも発展の一途を辿っているが、シオニズムを中心に扱った研究となると意外にも少ない。現代イスラエルをめぐる諸問題については、中東紛争やパレスチナ人が置かれた深刻な状況に対する関心の高まりから、それ相応の理解が進んでいるのはたしかだ。しかし、イスラエルという「ユダヤ人国家」を生み出した思想・政治運動としてのシオニズムに関する一般の理解は、その歴史的重要性にもかかわらず、いまだに初歩的な段階に留まっていると言わざるを得ない。そこで本書が第一の課題とするのは、シオニズムをとりまく諸問題を多角的に読み解き、近現代のユダヤ理解におけるこうした不均衡を問い直すことである。