Blog / ブログ

 

【報告】ワークショップ「メタ・イメージとパレルゴン」於フリブール大学

2011.11.14 小林康夫, 三浦篤, 小泉順也, 小澤京子, 安永麻里絵, イメージ研究の再構築

2011年10月20–21日、フリブール大学のストイキツァ教授との合同ワークショップ「メタ・イメージとパレルゴン」が開催された。UTCPからは拠点リーダーの小林康夫教授、事業推進担当者の三浦篤教授、特任研究員の小泉順也、小澤京子、共同研究員の安永麻里絵の計5名が参加した。

stoichita.JPG
【ワークショップについて説明を行うストイキツァ教授】

ヴィクトール・ストイキツァ教授といえば、かつてUTCPでも講演していただいたことのある国際的美術史研究者。日本でも主要著作が次々と翻訳されるなど知名度は高い。そのストイキツァ教授が率いるフリブール大学の美術史学科と東大のUTCPで連携して、若い研究者の発表を中心としたワークショップを実現したのが今回の企画である。

ストイキツァ教授と相談して、私のプログラムとも重なる「メタ・イメージとパレルゴン」をテーマとした。イメージの重層性とイメージの枠組みを意識したこのテーマは、双方の研究視点と密接に関わっている。UTCPからは私も含めて4人発表し、小林康夫教授は司会とコメンテーター役で参加してくださった。フリブール側からは7人の発表で、教員2人に助教・学生5人という陣容、ストイキツァ教授は総合司会としても気を配ってくださった。使用言語は仏語と英語で、プログラムはこちらを参照。

各々の研究対象を「メタ・イメージとパレルゴン」という視点から再考、再解釈する多彩な発表は、古代から現代まで幅広いタイムスパンを駆け巡ったが、自ずと共鳴し合い、対話を交わすような内容を持っていた。お互いの刺戟となる、また今後の交流も期待できる有意義な研究集会となったことをうれしく思う。ストイキツァ教授とその研究室のスタッフ、学生さんたちは我々を心温かく迎えて下さり、滞在中は本当にお世話になった。心より感謝したい。

印象に残ったこと。今回のワークショップで発表して下さったフリブール側の2人の教員のうち、赴任されたばかりのバッチ教授はシエナ大学から来られたイタリア人、招聘教授で半年いらっしゃっているミハエルスキ教授はドイツのテュービンゲン大学で教鞭をとるポーランド人(かつてワルシャワ大学のビアロストツキ教授の下で助手をしていた!)、ストイキツァ教授もルーマニア出身であることを考え合わせると、「どこにスイス人の先生がいるの?」という冗談が出るほどの多国籍性であった。学生も外国からの留学生が多いし、国際的な大学都市(フリブールの人口の4分の1は学生)の在り方を考えさせられた。フリブールという町自体、フランス語圏とドイツ語圏の境界に位置し、大学の授業も二言語が使われているとのこと。日本ではあり得ない環境である。意欲のある学生にフリブール大学に留学してみることをお勧めする。

ともあれ、プログラムを集約するような企画になったし、この経験を皆が今後に生かしていきたい。日本に来てもらうだけでなく、出かけていって交流する大切さを実感した数日間であった。[以上、報告:三浦]

kobayashi.JPG  miura.JPG
【司会を務める小林康夫教授(左)と三浦篤教授】


フリブール大学の皆さんに歓待して頂いたことに心から感謝している。個人的には再訪したい場所がスイスに生まれたように思っている。多言語を駆使した横断領域的な発表の数々にも刺激を受けたが、ワークショップ前日の19日に拝聴したストイキツァ教授の授業は圧巻であった。

その日はスペインの画家ムリーリョが描いた、ヴェールの図像がテーマであった。作品とともに、同時代の視覚資料や文学テクストが絶妙なタイミングで提示される講義は、聴く者の想像力と好奇心を刺激する内容であり、それだけで心が豊かになったように感じた。

小泉は20日の夕方に、「ポール・ゴーガンの絵画に於ける言葉:題名、署名、献辞」と題した発表を行い、自己喧伝と意思伝達の戦略という観点から、画面の文字に込められた機能と実際の効果を検証した。まだ萌芽の段階であり、なすべき作業はたくさん残されている。質疑の中で得られた指摘も活かしながら、来年以降に今回の成果を論文にまとめたい。[以上、報告:小泉]

koizumi.JPG
【会場からの質問に答える小泉】


小澤は20日に、「モンタージュとしての過去の再構築:ピラネージによる古代ローマ表象」と題した発表を行った。古代という歴史上の(擬制的な)起源を、イメージの次元で再現しようとしたピラネージは、必然的に起源の非単一性・重層性という困難に直面することとなる。これを止揚するためにピラネージが採った独自のメタ・イメージ構造には、絵画の平面/表層を攪乱するような仕掛けが潜んでいる――以上が私の発表の主旨である。ストイキツァ教授の著『絵画の自意識』に多大な示唆を受けた私にとって、ご本人の前で自らの分析を発表し、コメントを頂けたのは、この上ない僥倖であった。

この日には実に8名もの研究発表が行われた。そこで論じられた対象は、中世の宗教実践からゴーガンにおける「署名」の問題まで広範に渡るが「メタ・イメージとパレルゴン」という共通テーマを巡って、その周囲に思考と図像の「布置」が浮かび上がるような、充実した一日となった。[以上、報告:小澤]

ozawa.JPG yasunaga.JPG
【発表を行う小澤(左)と安永】


21日の午前中は、近接した近代的な建物の一室エスパス・ギュッギに場所を移して、報告者(安永)を含めて三本の発表が行われた。報告者は「美術作品を縁取る:エミール・ノルデの宗教絵画の展示1912–1937」と題して発表を行った。二日間にわたる研究会は、杉本博司の劇場シリーズに写真家自身の表象を見る、まさにメタ・イメージを主題とする本会を締めくくるに相応しい発表で幕を閉じた。

同日午後には、ストイキツァ教授のご提案で、教授の門下生の皆様と共に一時間ほど電車に揺られマルティニへと向かい、ジャナッダ財団で開催されていたモネ展を訪れた。マルモッタン美術館所蔵のモネの睡蓮やモネ自身が収集していた浮世絵が興味深かったことは言うまでもないが、地下に常設展示されていた自動車コレクションも個人的に大いに楽しむことができた。この研究会で充実した数日間を過ごさせていただき、心から感謝する次第である。フリブールへの帰路、レマン湖に沈む夕日の景色に車中の誰もが「これぞモネだね」と感嘆を漏らしていたのが印象に残っている。[以上、報告:安永]

together.JPG
【コレージュの庭を皆で散策しながら】

Recent Entries


  • HOME>
    • ブログ>
      • 【報告】ワークショップ「メタ・イメージとパレルゴン」於フリブール大学
↑ページの先頭へ