【出張報告】Getty Research Institute, CA, USA/安永麻里絵
2011年4月23日から5月1日までロサンゼルスのゲッティ・リサーチ・インスティテュート(Getty Research Institute)に出張し、口頭発表と資料調査を行いました。
ロサンゼルス郊外、サンタモニカ山の頂にあるゲッティ・センターは、ミュージアム、リサーチ・インスティテュート、保存修復研究所から成る、全米でも有数の美術研究機関のひとつです。
【ゲッティ・リサーチ・インスティテュート、庭園からの眺め】
報告者は昨年ゲッティ財団より図書館研究奨学金(Library Research Grant)を獲得し、秋に二ヶ月間、ゲッティ・リサーチ・インスティテュート(以下GRI)の付属専門図書館で調査をする機会に恵まれました。GRIは優れた研究者やキュレータ陣を抱える研究機関であるのはもちろんのこと、歴史的希少本や戦後の写真家のフォト・ブック・コレクションをはじめとする独自のコレクションをも形成しており、さらに、美術に関する膨大な文字資料の蓄積を誇るリサーチ・ライブラリーがゲッティ・センター全体の研究活動を支えています。この専門図書館には、一般的な美術専門書に加え(それだけでも膨大な所蔵数を誇っているのですが)、オークション・カタログなど美術コレクターや画商に関する資料を重点的に収集しているという特色があります。また、著名なアーティストやコレクターの自筆原稿や書簡といった一次資料を人物ごとに「○○・ペーパーズ」として保管しているスペシャル・コレクションは、米国内外から数多くの研究者や博士論文を執筆中の大学院生を引き寄せています。そのひとつであるカール・ヴィート・ペーパーズ(Karl With Papers)の調査にあたることが、報告者の昨秋の調査の主目的であり、今回の発表は、このときの調査結果を踏まえたものです。
【ゲッティ・センターのガーデンをめぐる散策路、斜面に咲く草花】
GRIで定期的に開催されているランチ・タイム・レクチャー・シリーズのひとつとして、報告者は4月25日(月)、ゲッティ・リサーチ・インスティテュートのレクチャ-・ホールにて、”Universalism in Museum Space: The Non-Western World and the Transformation of Display Styles by Karl Ernst Osthaus and Karl With” (「美術館空間におけるユニヴァーサリスム――カール・エルンスト・オストハウスとカール・ヴィートの展示様式の変容と非西欧世界」)と題し、発表しました。この二人の美術館人は、はじめドイツ北西部のハーゲン市にあったフォルクヴァング美術館において、後にケルン市立美術工芸博物館において、個々の展示物を展示空間から独立した自律的な作品として鑑賞することを促す、いわばホワイトキューブの展示形式の源泉ともいうべき展示を実践しました。
その理論的展開は、ときにホワイトキューブの理論以上に、ある種揺籃期特有の複雑さと多面性を備えており、とりわけ、非西欧の美術と西欧の美術をいかに展示するかという問題にたいする両者の取り組みは、今日の美術館というメディアをめぐる問題に根源的な問いを投げかけてくれるものです。(報告者の研究テーマについてはよろしければ過去のブログ記事をご参照ください。)
【ゲッティ・センターのガーデン、散策路から見下ろした眺め。中央に池があります。】
発表には、トーマス・ゲートゲンスGRI所長をはじめ、ゲッティ・センター内外から研究者総勢4、50名ほどの方々が足を運んでくださいました。GRIでは、二年間毎に研究テーマが設定されていますが、2009年秋から2011年夏までのタームではDisplay of Art(芸術の展示)というテーマが掲げられています。このような機会に発表させていただいたおかげで、扱う時代や地域が重なる研究者だけでなく、様々な地域や時代の美術を「展示」という切り口で考証している研究者の方々から貴重なご意見や質問を頂くことができました。
発表後の数日間は、前回に引き続きカール・ヴィート・ペーパーズの資料調査を行いました。また、ロサンゼルスにいくつかあるアート・ディストリクト(画廊が集まっている場所)では、土曜日に新しい展覧会がオープンする慣例があり、今回の滞在ではカルヴァー・シティーの画廊で、モダニズムの文脈で欧米に美術として流入したアフリカ美術の写真イメージを利用したコンテンポラリー・アートに出会うという嬉しい偶然に恵まれました。
【Nicole Eisenmann, Guy Artist, 2011, Susanne Vielmetter Gallery 】
出張をご許可くださったUTCPの諸先生方、事務局の立石さん、そしてGRIのトーマス・ゲートゲンス所長、キュレータのジョン・テイン氏、プログラム責任者のザビーネ・シュロッサー女史、そしてスタッフの皆様に、改めてここに記して御礼申し上げる次第です。
【報告:安永麻里絵】