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【報告】第5回BESETO哲学会議

2011.04.13 池田喬, 数森寛子, 朴嵩哲, 西堤優

2011年1月8-9日に、第5回目のBESETO会議が北京大学で開催されました。

会の正式名称は5th Annual Philosophical Meeting for Young Scholars of BESETO: Rationality in Human Life です。このBESETO会議は、ソウル国立大学のNam-In Leeさん、北京大学のZhang Xianglongさんと東京大学の村田純一さんの取り組みで、若い哲学研究者たちの交流のために設置されたものです。第1回がソウル国立大学で2007年2月3-4日、第2回が北京大学で2007年12月27-28日、第3回が東京大学で2009年1月10-11日、さらに二周目に突入し、第4回がソウル国立大学で2010年1月7-8日に開催されました。来年の1月は第6回を東京大学で開催することが決まっています。

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こちらのプログラムをご覧いただくと分かるように、BESETOは年々大規模な会議となってきました。2日間に分けて、38名が研究発表をしました。東京大学からの参加者は16名、そのうち、UTCPに関係している駒場キャンパス所属の若手研究者は7名です。みなさんにひとことずつ、感想を書いていただきました(中澤栄輔)。

池田喬
★発表タイトル: Watsuji and Heidegger on Aristotle’s Ethics: A comparative Study

発表では、和辻哲郎とハイデガーの関係に、両者のアリストテレス解釈から比較研究的に接近するという新アプローチの提示を試みた。この主題を選んだ背景には、東アジアの交流を目的とした国際会議で、日本の哲学者を紹介する発表も悪くないだろうという意識があった。その「交流」の面に関して。今回、私は日本側の実務担当者となり、日本からの参加者の窓口として、北京大学の先生がたや学生たちと諸々の連絡や確認を緊密に行った。それによって、こうした国際会議を企画運営するために費やされる並々ならぬ熱意と労力を強く感じることになった。Liu Zhe先生と Sun Yuchenさんをはじめ、北京大学のスタッフの方々に厚く感謝申し上げたい。次回東京で行われるBESETOでの再開が今から楽しみだ。

数森寛子
★発表タイトル: Visionary Catastrophe

北京到着日、大会ポスターのデザインに使われているカンディンスキーの絵がデザインされ、内側にそれぞれの名前を入れていただいた、オリジナル・タンブラーが全員に配られました。学会期間中は、皆がこのタンブラーに中国茶を注いでもらい、飲んでいました。エコであるだけでなく、北京大学の方々の細やかな心配りとホスピタリティーが込められたタンブラーに、発表前の緊張もなごみました。私にとっては、初めての英語での学会発表でしたが、発表後や懇親会の間に、研究に対する様々な質問をいただき、大変勉強になりました。今回知り合った研究者の方々が、来年、東京に来てくれることがとても楽しみです。北京大学の皆さまに心より感謝しております。

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西堤優
★発表タイトル: Hyperbolic Time Discounting and the Will

この度、初めてBESETO会議に参加しました。BESETO会議の魅力は、なんといっても英語のネイティブではない若手研究者の方々と交流できることだと思います。彼らの口頭発表は、大変刺激的であると同時にとても励みになりました。私自身の発表としましては、今後の課題を多く残す形となりましたが、そのような中でも多くのことを学び、また感じることができました。会議開催のために奔走してくださった北京大学の先生や学生、およびスタッフの方々に心から感謝したいと思います。

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朴嵩哲
★発表タイトル: Saving Simulation Theory from the "Collapse Argument"

私にとって今回のBESETOは昨年のソウルから連続二回目であった。北京の寒さは予想通りだったが、乾燥していることは想定しておらず、笑うと乾いた唇の皮が割れてしまって、舐めると血の味がした。食べ物はおしなべて辛く、出された料理は恐る恐る食べていた。ソウルのときは食べすぎで熱が出てしまったが、今回もやはり食べ過ぎで胸焼けを起こした。さて、肝心の発表であるが、参加者から多くの忌憚のない指摘を受けた。母語ではない英語でのやりとりなので、再反論として言いたかったことの半分も言えず、もどかしい思いが残ったが、自分の論文の舌足らずな点が分かったという意味で、今後につながる会であった。最後に、これ以上ないくらい温かくもてなしてくれた北京大学の皆様に感謝を申し上げたい。

★小池翔一
★発表タイトル: The Importance of Anti-Realism for Libertarian Freedom

北京大学のスタッフの皆様にはたいへん温かいもてなしをしていただきました。街なかの人々も、反日感情はどこ吹く風、写真などたいへん親切に取ってくださいました。何ごともじっさいに経験するというのが大事なようです。会議においても、中国や韓国でも自分たちと同じような研究をしている人がいるのだろうと頭では分かっていても、じっさいに目の当たりにし互いに議論することを通してはじめて、リアルな競争意識・仲間意識をもつことができ、刺激を受けることができました。このような交流によって、湯を注ぐとゆっくりと花開く中国の工芸茶のように、アジアに学術の花が咲くことでありましょう。

★田野尻哲郎
★発表タイトル: The Life Thought and Practice of Haruchika NOGUCHI and SEITAI: Taoism, Zen, four Western philosophers and Traditional Japanese Bioethics

東アジアの生命思想・実践の基底に、Tao(道/老荘の思想と実践)を、医学史・宗教史は見いだします。Taoにおける唯一の実在は、色彩としても認識される力の流動、陰陽の不断な相補と転換です。
昼の北京の公的空間に充溢する真紅は、個別性を全体性へ解消し補完する非人称の力です。だが夜の街の暗がりの随所では、濃紺の衣服をまとう人々が太極拳を舞っています。いったん真紅へ溶融した個の、濃紺としての湧出、再秩序化と個性化の風景です。
Taoの近代日本的変奏である「野口整体」、個が自律し自立する生命思想・実践の意義を、私は会議に報告しました。陰陽相打つ思想的場として会議を運営して下さった北京大学の方々に深謝します。

★工藤怜之
★発表タイトル: A Lesson for Scientific Realists from the Predictivism Debate

私は初めてBESETOに参加しましたが、何よりもまず、参加者を暖かく迎えてくれた北京大学の皆様に感謝を申し上げねばなりません。初めての北京滞在は、たいへん楽しく快適なものでした。もちろん、ソウル大学の皆様もフレンドリーで、和やかな雰囲気の中でいろいろな話をすることができました。政治的には複雑な緊張関係の中にある東アジアですが、冷静で健全な民間交流が続くことを願うばかりです。
ところで、中国や韓国には「いただきます」に相当する食前の言葉がないそうですが、酒を飲むときの挨拶は各国共通です。乾杯の後は、国境も専門分野も関係ないものだと感じました(良い意味でも悪い意味でも)。

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