【報告】なぜ共産党はいまだに中国を統治しているのか?―歴史的展望
2010年7月9日(金曜日)、東京大学駒場キャンパスで、フランス・プロヴァンス大学のンゴ・ミン-ホアン・ティさん(中国現代史、中国政治)をお招きして、 “Why Does the CCP Still Rule China Today? A Historical Perspective” (なぜ共産党はいまだに中国を統治しているのか?―歴史的展望)と題するご講演をいただいた。
ンゴ・ミン-ホアン・ティさんは、フランスに帰化したベトナム人のご両親をもち、中国に一年、日本の早稲田大学に二年留学した経験をもつ。中国共産党の議事録などを用いて研究を進めている。
本講演では、主として、現代に至るまで続くことを可能とした中国共産党の支配体制の特徴を解き明かそうとした、野心的な内容であった。講演の前半では、共産党革命について、特に、合成的な革命のプロセスに注目して論を進めた。具体的には、中国共産党の農村政策が明らかにされた。共産党革命以前、農民は、共産党的な価値観を共有していなかった。そこで、共産党員が農村に派遣され、農村内の個人と協力することで、共産党は農村の草の根まで浸透したという。これはだいたい1940年代から1970年代までの間に完了した。ここで重要なの点として、農民はただ受動的だったわけでなく、積極的だったことが指摘された。
後半は、今日の中国における共産党革命の遺産について考察した。毛沢東時代において、中国は国内的には一定程度民主化された。勿論、ここでいう「民主化」とは西洋的な人権重視の視点を含まない。農民の権利意識の高まりにより、農村における一種の自治機能が強化されたという。1980年代に始まった農村の委員会における選挙は、草の根の民主主義の発展を促した。農村で選出された委員会の指導者は、中央政府とも結びつくこととなり、中央と地方社会を結びつける媒体の役割を果たすこととなった。もちろん、農村委員会における選挙は、人民主権に基づく西洋型の民主主義の実現とは異なり、毛沢東の大衆路線政策の中に位置づけられることを忘れてはならない。この他、共産党には党内民主主義という特徴も見られることにも言及があった。
結論では、共産党が今日まで支配を存続させている理由には、中国に於ける国民建設との関係もある。そしてこの国民建設は、知識人から農民まで幅広く含むものであり、中国のアイデンティティは共産党と不可分の側面があると指摘した。
質疑においては、農村・地方社会における民主化と国民形成を両立可能な視座と考えることが妥当か、また、農村委員会における選挙のようなシステムが大都市や中央政府にも適応されるか、といった民主主義に関わる問題が議論された。西洋型民主主義という概念の意味をといつつ、文化大革命の意義をより吟味するべきではないかという興味深い指摘もなされた。他方、中国の権力構造が前近代以来実質的には代わっていないのではないか、という提起や、ベトナムとの比較や今日の経済発展の問題との関係など、多岐な問題関心から活発な議論が行われた。
中国が今後も世界中の注目を集め続けることは間違いない。その中で、再度民主化という問題、共産党の一党支配についても議論が活発になることは間違いない。そうした点を考えても、東アジアの隣人として、中国の統治体制のあり方を考えることが出来たのは有益であったと思われる。貴重な機会をくださったンゴ・ミン-ホアン・ティさんに改めて謝意を表したい。
阿部尚史(UTCP PD研究員)