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【報告】UTCP イスラーム理解講座第11回「イスラーム法と近代法」

2010.06.23 阿部尚史, イスラーム理解講座

2010年6月16日(水曜日)、東京大学駒場キャンパスで、2010年度初めてのUTCPイスラーム理解講座(通算第11回)が開催された。

イスラームの輪郭を把握する上で、シャリーアすなわちイスラーム法の概要を理解することは不可欠である。今年度よりUTCPに参加する研究員の方々もいることに鑑みて、イスラーム理解の要といえるイスラーム法に関する講演会の必要性があると考えた。そのため、日本では数少ないイスラーム法の専門家であり、国際的にも活躍する桜美林大学の堀井聡江先生(イスラーム法)をお招きして、「イスラーム法と近代法」と題するご講演をいただいた。

堀井先生は、元々、古典期の法学に関する文献学的な研究を専門とするが、現在は、アラブ諸国における法制度の近代化にも取り組んでおられる。日本語による概説書『イスラーム法通史』(山川出版社2004年)も公刊されている。

講演では、前半でイスラーム法の概要を説明し、後半で、エジプト民法典をもとに、近現代におけるイスラーム法の変化について、専門的な個別問題にも踏み込みながら、お話しいただいた。

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講演者は、前半のイスラーム法の概要では、クルアーンの中に見られる法的な記述を引用し、イスラーム法がクルアーンの影響下に形成されたことを分かりやすく説明した。まず、イスラーム法が、ウラマーの学説からなる不文法であることを確認した。またスンナ派では、10世紀頃までに4つの法学派が成立したが、各法学派間、さらに法学派の中でも学説の不一致・対立が見られたことが説明された。そしてイスラーム法はイスラームが支配的な地域に急速に広まったため、各地の慣習法(アラビア半島の慣習やローマ法など)を含み、多様な基層からなっていることが指摘された。以上のように、イスラーム法の性格が簡潔に分かりやすく解説された。

次に、イスラーム法とその周辺に関する研究動向が概観された。講演者の堀井氏によれば、現在の法学研究の傾向が、実務に関する研究(主として法廷文書を用いた研究)にせよ、理論的側面の研究(法学書研究)にせよ、19世紀から20世紀前半までに活躍したオリエンタリストの研究、すなわち、イスラーム法の影響を過小に評価する姿勢に対する批判という側面を持ち、社会におけるイスラーム法の影響の実態を明らかにする傾向があるという。

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後半では、法制度の近代化、とくに、エジプトにおける民法典を取り巻く問題について、実証的な議論を展開した。まず、近代に西欧の影響で制定法を作成したことが、この地域の法を考える上で極めて重要な問題であったことが指摘された。前半で触れたように、イスラーム法は、個々の法学者(ウラマーと呼ばれる)の法的営為の総体であったが、法の成文化の過程で、イスラーム法の多様な学説の一部が切り取られ、法典に押し込められた事情が説明された。つまり、「イスラーム法の影響を受けている」というのは、制定法を正当化するための口実に過ぎない側面が指摘された。

この中で、元来イスラーム法に見られる「先買権」が、民法典に取り入れられた意図は、国家政策一側面(たとえばワクフの削減や財政難の解消)を有していたことを、詳細な事例研究から明らかにされた。こうした個別研究を行うことで、個々の条文を「イスラーム的」と安易に解釈するのでなく、国家と法の関わりや当時の社会的な状況を明らかにすることが可能となるという。

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質疑においては、イスラーム法学者と西洋の教会法学者の比較や、刑法とイスラーム法の関係を問うものに始まり、イスラーム法が、西洋の近代法の根本である意思主義に近いのか、表示主義に近いのか、といった法学の根本にも関わる問題まで議論は及んだ。

本講演会には、UTCPの関係者に留まらず、多くの参加者を得て、議論も盛り上がり、非常に有意義な機会であったと思われる。最後に、イスラーム法という重要な内容を、近代的な問題とも関連づけながら分かりやすくご講演くださった堀井先生に謝意を表したい。

阿部尚史(UTCP・PD研究員)

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