【報告】「すでに死せるもの」エリック・カズデン氏講演会
トロント大学教授エリック・カズデン氏による講演会「すでに死せるもの―政治学、文化、病の新時代」が4月19日(月)に、駒場キャンパス101号館2階研修室で行われました。
エリック・カズデン氏は、美学と政治学の関係性をめぐる問題を研究の主題とし、映画、日本、マルクス主義、精神分析という、幅広い視点からのアプローチを展開している研究者です。カナダ・トロント大学の比較文学研究所および東アジア研究科で、文化論、批評論を教授されています。
今回の講演会では、カズデン氏の近刊予定の著書『すでに死せるもの-政治学、文化、病の新時代』(The Already Dead: New Times of Politic, Culture and Illness)でなされる議論に基づく発表をしていただきました。
Crisis is not what happens when we go wrong, crisis is what happens we go right.
これが、カズデン氏の「すでに死せるもの」の概念の基盤となっている視点と
言えるでしょう。
カズデン氏が論じる「すでに死せるもの」とは、死の宣告がなされ、すでに未来における死が確定しているにも関わらず、未だ死をむかえていないものを意味します。カズデン氏はこの「すでに死せるもの」としての存在の仕方を、現代の時間性に特有の病―「慢性病」として指摘しました。
発表の後半部では、日中の街中を人々がゾンビに扮して歩き回る「ゾンビウォーク」が取り上げられました。ゾンビは夜に人間を食べることで生き続けるものですが、ゾンビウォークの参加者たちは、昼間に歩き回り、夜にはレストランで普通に食事をとります。そこからカズデン氏は、ソンビという「すでに死せるもの」の姿をとろうとする欲望に、資本主義以外の何かを求めながらも、最終的には資本主義に戻らざるを得ない、現代の欲望の様態を見て取るのです。
発表を受けて、参加者とカズデン氏との間では活発な議論が交わされました。
カズデン氏によれば、「すでに死せるもの」の出現は、グローバル・キャピタリスムの時代に特有な現象の出現――グローバル・サーキュレーションや国際的な養子縁組制度など――と同時に起こったものであるとのことです。現代社会の問題に切り込むカズデン氏の議論は、様々な学問分野を接続する視点として、非常に興味深いものでした。
(報告:数森寛子)