【UTCP on the Road】 平倉圭
5年間UTCPで勤務していました。研究以外の主な仕事は、ウェブサイトの管理運営と出版物のデザイン。最近おこなったのは、UTCPのこの8年間の活動をまとめた「UTCP index」のブックデザインです。
(UTCP index 2002-2009 日英併記・114頁)
いわばUTCPの「広報」の仕事に携わっていたわけですが、私がつねに意識していたのは、「原則的にすべての活動を公開する」ということです。
もちろん学的営みのなかには、沈黙の中で機が熟すのを待たなければいけないことはたくさんある。それでも、イベントのかたちで公表されたものはネット上でも公開できないか。出版物も、可能な限りすべてPDFで読めるようにできないか。
そんな考えで始まったこのウェブサイトは、現在では、研究員はじめ多くの方々の活用のおかげで、私の想像を超える厚みと広がりを持つものになっています。毎日のアクセス数は1000近くあり、そのうち相当数が海外からのもの。私自身にとってとりわけ驚きだったのが、自分の論文が英語圏の研究者に読まれるようになったことでした。
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そうしてUTCPの「知」の成果を対外的に表象する仕事に携わる一方、一研究員としては、UTCPでの経験は、たえず「無知」へと投げ出されることの連続でした。
この5年間は私にとって、ちょうど博士論文の執筆時にあたりますが、自分の「専門」を深く掘り下げようというその時期に、専門外の全く知らない研究に触れ続けたこと、とりわけ科学哲学系の議論に接触したことは、狭い学問意識の外に連れ出される、とても解放的な経験でした。その経験は、私の博士論文にも、たぶん深く影響を与えています。
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新しい勤務先では、「芸術への分析的/構成的アプローチ」をテーマに、作品を観察し・分析することと、実際に手を動かして作品を(再)構成することを同時におこなうという研究教育のプログラムを立てています。「模写」や「臨書」といった行為は、古くからある芸術の「構成的」理解の方法ですが、この方法を、芸術の分析的理解と、理論的にも不可分に接続することができないか。そこから芸術の創造という問題を、新たな仕方でとらえていくことができないか。
現場の実践と理論的考察とをつなぐこのテーマは、おそらくUTCPで私が経験していた感覚と近いところから来ています。
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UTCPでの日々、とくにこの3年間は、息つく間もなく過ぎていきましたが、振り返ってみると、本当に知的に触発されることの多い貴重な時間でした。
最後になりますが、この間お世話になった事業推進担当者の皆さま、研究員・スタッフの皆さまに、心から感謝いたします。
ありがとうございました。
平倉圭