未来形の追慕の方へ——映画『哲学への権利』巡回上映中
2010年2月から3月にかけては、日本各地、フランス、韓国と疾風怒涛の旅の日々だった。拙ドキュメンタリー映画「哲学への権利――国際哲学コレージュの軌跡」が各地で巡回上映され、おかげさまで好評を博している。
映画HP(映画の概要、上映情報、報告など)⇒ http://rightphilo.blog112.fc2.com/
映画「哲学への権利」のこれまでの巡回上映の旅の記録が映像作品にまとめられた。「2009年12月-2010年2月 日本編」と「2010年2月 フランス編」の2作である。これまでのゲストの貴重な言葉が並ぶ感慨深い映像で、個人的には思慕の情が湧き上がってくる。
「旅思(1)――映画『哲学への権利』巡回上映の旅の記録」(9分41秒)
「旅思(2)――映画『哲学への権利』巡回上映の旅の記録」(10分42秒)
映画上映とともに討論会を併載して、毎回多彩なゲストに議論の相手をしていただいている。各人の視座から鋭い感想や問いを投げかけていただき、みなさんの寛大な尽力には頭が下がる思いである。そして、それ以上に感謝の念が絶えないのは、上映を支援してくれる少なからぬ数の学生たちに対してである。各会場での設営、準備、受付、写真・動画撮影、後片付けなどに関して、全国各地で学部および大学院の学生が協力の手を代わる代わる差し伸べてくれて、運営が非常に上手くいっていることに驚いている。
(3月7日 東京大学本郷キャンパス 熊野純彦 鈴木泉)
(3月13日 京都大学 小野文生、森田伸子、大河内泰樹、山名淳)
(3月19日 九州日仏学院 ミシェル・ドゥギー、藤田尚志)
(3月20日 渋谷・UPLINK FACTORY 芹沢一也。本作の完成記念上映会は昨年9月にこの映画館でおこなわれた。日本各地での巡回上映を一通り終えて、かつての故郷に帰還した気持ち。)
3月は、嬉しいことに、映画出演者3名(ミシェル・ドゥギー、ボヤン・マンチェフ、ジゼル・ベルクマン)の懐かしい顔ぶれと共に討論会を実施することになっている。小林康夫氏も交えて3名と夕食を共にした今夜は実にスリリングだった。主に小林氏とドゥギー氏のあいだで「現在、詩はいかにして可能か」をめぐって議論が戦わされたからだ。「詩は言語を必要とするが、にもかかわらず、言語から解き放たれることは可能だろうか」「詩はエコロジーの問いのなかにその将来を見い出すのではないか」「交渉されるべき環境世界ではなく、さらに深遠な、世界への開かれこそが詩の課題だ」などなど。
ちなみに、この晩餐はたまたま、私の地元・愛媛県の郷土料理屋(@新橋)でおこなわれた。ドゥギー氏がたまたまこの店を気に入っているのだという。懐かしい仲間とともにしばし思郷の念にかられた夜である。
いよいよ、27日には東京大学UTCPにて、映画「哲学への権利」が上映され、出演者ボヤン・マンチェフ氏、ジゼル・ベルクマン氏と共に総括的な討論がおこなわれる。上映運動のひとつのクライマックスをなすイベントになるだろう。
⇒/events/2010/03/post_77/
ところで、未来形で追慕の念を語ることは可能だろうか。27日のイベントを最後の仕事として、私はUTCPを去ることになる。やがて私はこの特異な研究教育の場に敬慕の念を募らせていくことになるだろう。27日の上映・討論会ができるだけ充実した会となるように心と力を尽くしたい。
(文責:西山雄二)