イスタンブルの魚市場にて ― ハルドゥン・ギュラルプ教授との会食
年明け間もない1月4日夜、イスタンブルはベシクタシ地区の魚市場の周辺に密集するメイハーネ(トルコ居酒屋)において、ハルドゥン・ギュラルプ教授と再会を果たすことができた。ベシクタシ地区はギュラルプ教授のご自宅と、勤務先であるユルドゥズ工科大学とに近く、店主やギャルソンの熱烈な歓迎ぶりからも店の常連客との印象を受けた。
ハルドゥン・ギュラルプ教授は、トルコ共和国におけるイスラームと世俗主義との問題について精力的な研究をつづけられており、トルコ国内はもとより欧米においても広く知られた研究者である。UTCPの招聘によって、ユルドゥズ工科大学経営学部長としての多忙なスケジュールの間をぬって昨年11月に来日された。11月9日に本郷の東洋文化研究所においてSecularism, Democracy and the AKP in Turkeyと題した講演を行われ、同月11日には駒場18号館においてLaïcité and the Fear of Islamと題するイスラーム理解講座の講演を行っていただいたことは記憶に新しい。
トルコの懐メロが静かに流れるメイハーネの片隅で、トルコ語でメゼと呼ばれる多種多様な前菜の小皿や濃厚な白チーズを肴にしてトルコの国民酒であるラクの白濁したグラスを傾けながら、しばしお互いの近況について話し合った。ギュラルプ教授は、ご自身にとって初めてとなった日本訪問とUTCPにおける講演が非常に実り多いものであったことに触れられ、さらに中期教育プログラム「世俗化・宗教・国家」の責任者である羽田正教授とUTCP拠点リーダーである小林康夫教授、および滞日中に何度も食事をともにしながら議論を行った若手研究者たちへの深い感謝の意を表された。
また、今回の訪日によって構築された公的私的な関係を通じての今後の研究協力の可能性についても言及された。さらにギュラルプ教授は、筆者に対しても、次回のトルコ訪問時にユルドゥズ工科大学において最近提出したばかりの博士論文の一部を報告するように要請された。二人でラクを一瓶空けて、メインのカタクチイワシのグリルを食べ終わる頃には、店に入ってから優に3時間が過ぎており、楽しい時間がいかに早く流れていくのかを実感させられた。
UTCPに参加させていただかなかったら、前近代のオスマン帝国史を専門とする筆者がギュラルプ教授と知り合う機会はおそらくなかったろう。人と人とのつながりが日本以上に緊密で、それゆえに重要なトルコにおいては、やはり人と人とのつながりによって、研究活動から日常生活に至るまで、あらゆる可能性が広がっていく。こうした意味において、ギュラルプ教授と出会い深い信頼関係を築くきっかけを与えてくださったUTCPと中期教育プログラム「世俗化・宗教・国家」にあらためて感謝申し上げたい。
(文責:澤井一彰)