【参加報告】World Wide Views in Osaka
2009年9月30日、大阪大学豊中キャンパスで開催されたWorld Wide Views in Osakaに参加した。
World Wide Viewsとは、2009年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催される「COP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)」に先だち、COP15の交渉代表団に対して世界の市民の声を届けるため、そして、世界の市民に今後のグローバルな気候変動政策の動向に影響を与える機会を提供するために、デンマーク技術委員会(Danish Board of Technology)とデンマーク文化協会(Danish Cultural Institute)によって企画されたプロジェクトである。World Wide Viewsの目玉は、世界38ヶ国44ヶ所で開催された世界市民会議である。各市民会議には、それぞれ100人の市民が集められ、COP15で交渉されると予想される京都議定書後の体制づくりなどの論点について、同じ情報資料に基づき、同じ問いについて、同じ手法を用いて、地球を西回りに、各現地時間の9月26日午前9時頃から議論された。
日本でのWorld Wide Viewsは、大阪大学デザインコミュニケーションセンターが中心となり、京都で開催された(World Wide Views in Japan)。World Wide Views in Japanは、他のWorld Wide Viewsと同様、参加者は男女比や年齢構成などを勘案しながらリクルーティング方式で集められ、公募制はとられなかった。
われわれが参加したのはWorld Wide Views in Japanではなく、World Wide Views in Osakaである。World Wide in Osakaは前述の大阪大学コミュニケーションデザインセンターで開講されていた講義「科学技術コミュニケーションの理論と実践」の受講生と同大学の環境系サークルGECSのメンバーから計18名の有志を募り、World Wide Views in Japanとほぼ同じ手法を用いて行われた、スタッフも参加者も学生というイベントであった。
以下、World Wide Viewsの進行について説明する。会議は、4つのテーマセッション(各論)と提言セッションを、各5〜6名のグループで議論した。最後にその結果が全体に報告された。各セッションは、テーマの紹介と内容に関連した短いビデオの上映、問いの提示と説明、グループごとのディスカッション、参加者の回答の投票、という流れで進んだ。これは、いままで気候変動について考える機会を持たなかった人であっても、議論を通して各人の意見を形成することができるように工夫されたプロセスである。
ここで各のセッションで議論されたことを簡単に紹介したい。第1テーマセッションでは、気候変動についての参加者それぞれの見解や知見、それに基づく懸念について議論した。中尾の参加したグループでは、気候変動に関して実感がない、気温を測れるようになったのが150年前からであることから実際には何が正しいのかわからない、信じられない、二酸化炭素の増大と温度上昇の関連性がわからない、といった懐疑的な意見が多数を占めた。今の学生は、テレビや新聞などのメディアの情報を鵜のみにせず、自分の頭で考え、実感し、判断したいと考えていると感じた。一方で、会議の資料では寒い国々などでの温暖化によるメリットも紹介されており、そうしたポジティブな情報の提示が新鮮であるという意見もあった。
第2テーマセッションは、国際的な取り決めにあたって、気候変動の緊急性と対策レベルについて議論した。中尾の参加したグループでは、長期目標として気温の上昇を2度以内におさえるべきか、それとも現在のレベルに抑えるべきか、をめぐって真剣な議論がなされた。約束を果たさなかった国に対して罰則規定を設けるべきかどうかという点に関しては、意味のある罰則を設けるべきであるという意見が主流であったが、多くの国が条約に批准することが重要となるので形式的な罰則にとどめるべきだという意見も出された。
第3テーマセッションでは、温室効果ガス排出への対応について議論された。世界の国々を気候変動枠組条約の付属書I国、先発途上国、後発途上国の3グループに分けた上で、それぞれのグループに属する国が温室効果ガス排出に対してどのような対応をすべきかについて話し合った。関谷の参加したグループでは、温室効果ガス排出への対応を考えるに当たっては、経済との両立や目標の実行可能性が考慮されるべきであるとの意見が出された。また、温室効果ガス排出への対応をもっとも行わなくてはならないのは付属書I国であり、次に先発途上国、最後に後発途上国という順であるという合意があった。
第4テーマセッションでは、技術および適応策のコストとして、化石燃料の価格をコントロールすることの是非、気候変動問題に対応するための国際的な基金の設立の必要性、気候変動問題のコストを誰が負担するかについて議論された。関谷の参加したグループでは、化石燃料の価格統制は困難であり、実際に環境効果があるように思えないとの発言があった。また、一部の国ではなくすべての国が気候変動問題に対応するシステムを構築するために、国際的な基金を設立するならよいのではという提案が出された。
最後に、第1〜4テーマセッションでの議論を踏まえ、各グループがCOP15の交渉代表団に対して送る提言をとりまとめた。関谷の参加したグループでは、まず議論の前提を再確認する必要があるだろうという認識に立ち、「将来の自分たちはどうありたいか、将来の“あなたたち”のために何ができるかを常に意識し、数多くある守るべきもの、尊重すべき考え方に、どのような優先順位で取り組むかを自覚し、影響を受けるすべての人々が情報を共有し意思決定を批判できるようなシステムを構築してほしい」という提言をまとめた。
World Wide Views in Japanでは18グループがそれぞれ提言をまとめ、その後に各参加者が他のグループの提言を回覧しながら各人がこれぞと思う提言に票を入れた。その結果、最も得票の多かった提言がCOP15の交渉代表団に伝えられることになる。一方、World Wide Views in Osakaでまとめられた提言はCOP15の交渉代表団に伝えられることはない。そこで、スタッフ・参加者ともに学生であるという特徴を活かし、各人の所属する大学に向けて気候変動問題に関しての提言を行い、グループごとに競うというセッションが追加されていた。関谷の参加するグループでは、(a)大学内の活動に伴うエネルギー使用の節約を継続する、(b)大学が率先して環境技術の研究に取り組み、それを対外的にアピールする、(c)市民に対して公開講座や図書館の開放などによって、気候変動問題について思考し議論するための土台となる知の提供を行う、(d)1限に魅力ある講義を増やすなどして、学生に対して朝型の生活を促すことにより、大学および学生の自宅でのエネルギー節約を約束するという提言がまとめられた。どれも魅力的な提言であり、各グループとも票を分け合う形になったが、僅差で関谷の参加したグループの提言が最大得票数を得た。これはおそらく、提言のうちの(d)が大学への一方的な提言ではなく、大学とともに自らのライフスタイルにも一定の変革を迫るものになっており、大学と学生とがともに気候変動問題に対応していくという姿を示せたからであろう。
さらなる具体的な内容についてはスペースの都合上、割愛させていただく。結果はすべてWeb上に掲載されているので、関心のある方はそちらを参照していただきたい(http://wwv-japan.net/report/)。この結果から、各国との比較、また学生と一般との比較なども簡単にできるだろう。その分析結果も主催者によって今後なされる予定である。
最後に、この会議に参加することで、World Wide Viewsの試みが、気の遠くなるような過程を経て、多くの人々の働きの結果、実現に至ったということを知った。いま日本では、裁判員制度に代表されるようにさまざまな分野において直接的な市民参加の流れがおしよせている。科学史や科学論を学ぶわれわれは、この潮流を肌で実感じつつ、ただその波の寄せるに委せるだけではなく、自らの専門的見地から、現状を深く検討する必要があると考えている。今後UTCPでも市民参加に関するワークショップが開催される予定である。その時には今回の経験などを踏まえて、内容のある議論をしたい。