【報告】時代と無意識セミナー 2009年度夏期
今期の「時代と無意識」セミナーでは、前年度に引き続き、小林康夫拠点リーダーとPD研究員の森田團さんによるヴァルター・ベンヤミン講読のジョイント・セミナーを中心にしながら、随時、近代美術・文学を専攻する学生の発表をはさんでいる。
4月10日
初回は、ヴァルター・ベンヤミン「1900年頃のベルリンの幼年時代」のなかから「序」・「ロッジア」を講読し、また今後のセミナーで展開されるテクスト群のネットワークが提示された。
4月17日
小林氏による、ダヴィデ・スティミッリ氏の「Was Kafka a saint?(カフカは聖人だったか?)」(1994)というテクストをめぐる講演(連載「思考のパルティータ」第20回に基づく)ののち、森田さんが「世俗化された世界における聖人とは何か」という問題、そして想起と受動性をめぐる近代の変容について論じた。
5月8日
ベンヤミン「1900年頃のベルリンの幼年時代」における「せむしの小人」をめぐるセミナー。歴史哲学と生の自己解釈・位置確定という問題について講義したあと、小人のまなざし、グリム童話における「悪いやつら」、破片の山、時間の縮約、パラパラ漫画…といった、圧縮されたさまざまなモチーフを歴史哲学の問題から解読した。
6月5日
ベンヤミン「歴史の概念について」の第 I・II テーゼを読むセミナー。チェスの自動人形のテーブルに隠れた「せむしの小人」の形象と、ベンヤミンの思考と神学をめぐる関係が、『パサージュ論』の「N 認識論に関して、進歩の理論」に収められた断片などから明らかにされた。
6月12日
郷原佳以(関東学院大)さんによる発表「危機と星座 Crise et constellation──マラルメとベンヤミンの〈時代〉」が行われた。ベンヤミンにおけるマラルメからの影響関係に始まり、「印象派の画家たちとエドゥアール・マネ」などのマラルメのテクストを〈典型〉〈様相〉〈メディウム〉という概念をめぐって解読し、マラルメの多面性を描出した。
6月26日
ベンヤミンの対話篇「虹──ファンタジーについての会話 Der Regenbogen. Gespräche über die Phantasie」(未邦訳、1914/15)、および「子供の本を覗く」(1926)を読むセミナー。創造性/受容性の差異という問題から、実体なき純粋な属性としての色彩という受容性の領域において、〈ファンタジー〉の概念が再定義された。
7月10日
ベンヤミン「宗教としての資本主義」(1921)〔邦訳は『来たるべき哲学のプログラム』(晶文社)に所収〕および、ジョルジョ・アガンベン「瀆神礼賛」(『瀆神』所収)を読むセミナー。資本主義を宗教とみなしたベンヤミンのテクストをめぐって、オイディプス王やカフカの問題にも通ずる、悪事なき罪の連関という構造が提示された。
(報告:荒川徹)