【イマージュに魅せられて 1】ガンボーニ教授、プレイベントの顛末
*UTCP事業推進担当者の三浦篤さんによる不定期連載第1回です。
とうとう始まってしまった。待ちに待ったというか、これからどうなるか予想もつかないというか……。新中期教育プログラム「イメージ研究の再構築」の開始を告げるプレイベントのことである。
【講演会(2009年7月12日)】
今、国際的にもっとも注目されている近代美術史研究者、ダリオ・ガンボーニ氏(ジュネーヴ大学教授)をお招きして、7月12日、14日、16日と、1日おきに講演会とセミナー2回を重ねたのは先週のこと。春から学生たちと本格的な準備を始め、かなりの事務量を関係者全員でこなし、外部からの協力も仰ぎつつ、ようやく日の目を見た「作品」のようなものだ。
多彩な業績をお持ちのガンボーニ氏だが、今回は主著『潜在的イメージ』に力点をおいてご出演いただいた。イメージの曖昧さや多義性をめぐる裾野の広い刺激的な研究であるのは分かっていた。まず、講演会にはできるだけ多くの方々にご来場いただきたく、ルドンとゴーギャンというよく知られた、そしてガンボーニ氏がもっとも力を注ぐ二人の画家における潜在的イメージの問題をお話しいただいたのだが、研究者としての自己形成史を織り込まれたのが印象的であった(研究においては、主体が対象を選ぶのではなく、むしろ対象が主体を選ぶ、偶然という名の出会いの必然)。幸いにも150人近くの来場者を数え、懇親会も含めて盛り上がったのは幸先良かった。
セミナー2回はやり方を変えてみた。最初の回は、潜在的イメージのテーマを掘り下げるために、3人の中堅・若手研究者(小泉順也、金沢百枝、近藤學)がガンボーニ氏に質問やコメントを投げかけるという形式で、フランス語と英語を交えて議論した。各々の専門を生かした3人の意欲的な発表に対する氏の返答、他の参加者も含めたさらなる議論の展開はなかなか面白く、司会をしていて時間がもっとあればと思わずにはいられなかった。このテーマにまだこれだけの広がりがあるとは、という言葉をご本人から引き出し得たのは成功の証と言ってよいだろう。
【セミナー1(2009年7月14日)】
セミナー2は原則として英語に限定し、院生を中心とした学生たちとガンボーニ氏のディスカッションの試みに突入。「芸術作品としての個人美術館」を分析した氏の最近の論文を読み込み、事前に勉強会をし、予め質問を送るなど、もっとも準備に時間をかけている。司会の藤原貞朗氏(『潜在的イメージ』の訳者)が期待を表明したように、果たしてジュネーヴ大学でのセミナーと同じようになったのかどうか私には判断できないが、学生たちが次第に積極的になっていくのを見るのは興味深かった。少なくとも、このテーマに関する本質的な矛盾や問題点が浮き彫りになったのは、氏自身にとっても無駄ではなかったと信じたい。
【セミナー2(2009年7月16日) 最後列左端より:三浦篤教授、藤原貞朗・茨城大学准教授、一人おいてダリオ・ガンボーニ教授】
講演会もセミナーも、全体として肩ひじ張ることなく、思ったより自然な雰囲気で時間が流れ、それなりの大変さはあったけれど、とても楽しい3日間だった。イメージ研究においても、国内と海外の垣根は少しずつ低くなっていくだろう。(講演会、セミナーの詳しい内容は各報告ブログを参照[講演会の報告→こちら;セミナーの報告→こちら)
付け加えておけば、短期間とはいえ、優れた研究者の謦咳に接するのは得るところが多い。ガンボーニ氏の場合、これまでにない大胆なテーゼを出すのに、当然とはいえこれほどまでに慎重なのか、と思わせられる場面が何度かあった。そう、彼の基礎はまず堅実な美術史研究なのであり、作品と資料をとても丁寧に扱い、自分の眼で確認しているのが、よく分かった。「飛ぶ」ためには細心の「押さえ」が必要だということ。
また、スケジュールの詰まった滞在の間に、出光美術館とブリヂストン美術館にご案内し、日本の古美術や西洋近代絵画を一緒に見ながら、いろいろお話ししたが、精細な観察と技法的側面への関心の強さが印象に残った。今後とも国際的なネットワークの中で連携する約束をしてお別れしたが(具体化のプランを思案中)、既に踏破済みの西日本の主要な美術スポットに引き続き、これから東日本を制覇されるのだとか。無事にご帰国されることを祈りたい。
(三浦篤)