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時の彩り(つれづれ、草) 070

2009.06.25 小林康夫

☆ Quel sujet du politique? (政治の主体?)

6月20日パリの大学都市のなかにあるハインリッヒ・ハイネ館のホールで、国際哲学コレージュ主催(UTCPも共催になっています)のシンポジウムが開かれました。なにしろ朝の9時から夜8時半までの「マラソン」セッション。トニ・ネグリが身体の不調から直前キャンセルしたのは残念でしたが、アルゼンチン、オーストラリア、ブルガリア、ロシア、イギリス、アメリカ合衆国、スペイン、イタリア、アジアからはわたしと世界各国からの発表者によるあくまでも討議中心の研究集会でした。

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実は、わたしにとってはこの数ヶ月、このシンポジウムのためにテクストを書くというのがかなりのストレス。その理由はいろいろあるけれど、哲学の名において、政治というコンテクストでまたしても!「主体」について語るということに懐疑的だったということがあります。

結局、直前になって、あえて「強い主体」と「弱い主体」という「弱い」区別を持ち出して、バナールで脆弱で弱い主体の「弱さ」に可能性を見出すという方向の展開を準備しました。それをパリに向かう飛行機のなかでもフランス語に直すという状態。わたしの発表には、エティエンヌ・バリバール氏が趣旨をさらに展開する理解を示してくれたのが嬉しかったですが、ともかく錯綜する討論のなかに「弱さ」という問題提起の糸をひとつ忍び込ませることができたのはよかったのでは。(もうひとつ、その「弱さ」を「人類」という非主体に結びつける後半の議論はまったく反響がありませんでしたけど。)

現実の政治的状況(そこではイランの改革派への弾圧に抗議する署名活動も行われたのでしたが)に対して、はたしてどのように哲学が振舞うことができるのか――わたしとしては、その「現状」を確認することが最大の目的だったのですが、いずれ別な形で報告すると思いますが、けっして「明るい」わけでも「確かな」わけでもないと感じました。問題はいよいよ深まるばかりです。今後も考えなければならないいくつもの問題提起が行われた会でした。

12時間に及ぶ討議を終えても、空はまだ明るく、北国の夏の夜の明るさを味わいながら、参加者たちとダゲール街にあるレストランで食事。途中、興が昂じて、「インターナショナル」をはじめとする「革命歌」を異なった言語でいっしょに歌う盛り上がりになったのはおかしかったですね。討議では「階級闘争」の復活を主張する若い研究者もいましたから、「強い主体」への郷愁はやみ難いというところなのかもしれません。

フランシスコ・ナイシュタットさんをはじめとするUTCPの友人たちとの再会も嬉しかったですが、新たに何人か、いっしょに仕事をできそうな人たちにも出会えました。出会いの連鎖を今度につなげていきたいと思っています。

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