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【報告】ジョン・マラルド「日本哲学の約束 I」

2009.02.11 中島隆博, └日本思想

 去る1月27日、北フロリダ大学の日本思想研究者ジョン・C・マラルド氏による第一回目のセミナーが行なわれた。

 「日本哲学の約束」と題されたマラルド氏のこの連続セミナーは、西洋哲学を規定している諸々の二項対立図式(理論と実践、事実と価値、自己と他者、文化と自然、精神と物質……)に対するオルターナティヴを日本哲学のうちに見出そうとするものであり、第一回目のセミナーでは、まずこうした氏の立場と方法論について簡単な紹介があったのち、「自律と依存」という二項対立が主題として扱われた。

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 オーソドックスな哲学的理解では、自律(autonomy)とは、自己統治と帰責可能性の基礎をなすような個人の人格的自律を意味し、その喪失はそのまま依存(dependency)と同義である。だがマラルド氏は、何ものにも依存することなく「道」に従うという『臨済録』に見られる思想に言及し、ここには、単なる自己統治ではなく、むしろ状況のコントロールのもとで自律的になるという思想が見て取れると考える。同様の思想は、西谷啓治の『宗教とは何か』などにも見出され、氏によれば、これは儒教的な「仁」の観念にまで遡行することができる。つまり「仁」とは、社会的な相互関係のうちで成り立つ自律性を表している語なのである。

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 その上でマラルド氏は、こうした思想からいかなる政治的統治の可能性が導き出されるかを明らかにした。そこから生じるのは、自律的である人間が他者に対しても支配的となるような統治のあり方ではない。むしろ問題なのは、「礼」といった語に表されるように、慣習などの社会関係のなかで行なわれる相互的な実践なのであり、相互依存関係によって形成される非強制的な統治こそが、政治的自律についての儒教的なオルターナティヴを成しているとマラルド氏は主張した。

(文責:大竹弘二)

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