【報告】Aby Warburg's Afterlife
1月9日と16日、ダヴィデ・スティミリ氏(コロラド大学)による連続レクチャー、「Aby Warburg's Afterlife」がおこなわれた。
スティミリ氏の業績については、事業推進担当者・田中純氏による紹介があるので、そちらを参照されたい。⇒ヴァールブルク研究者としてのDavide Stimilli氏
連続レクチャーの初日は「インプレーザImpresa」をめぐっておこなわれた。インプレーザは、語とイメージからなる紋章のこと。ヴァールブルクの図書館に掲げられた「ムネモシュネmnemosyne」という言葉を、「インプレーザ」の片割れをなす語として読み、これに対応するイメージを探り出そうというのがこの日のテーマ。スティミリ氏はヴァールブルクが制作した図像アトラス「ムネモシュネ」を最初の手掛かりとして、メルカトルの地図帖の表紙に掲げられた「アトラス」像、ジョルジョ・マルティーニによるアトラス像を詳細に分析し、最終的に「ムネモシュネ」のなかに現れる1枚のアトラス像――片膝をついて、「時の終わり」を持ち上げようとしている――をインプレーザのもうひとつの片割れとして解釈することを提案した。
2日目のテーマは「ペンティメントpentimento」。ペンティメントは、下から浮き出てくる痕跡によって判明する「重ね描き」のこと。スティミリ氏が分析するのは、現在はフィリピーノ・リッピによるものと考えられている1枚の肖像画についてのヴァールブルクの未出版手稿だ。ヴァールブルクはこの絵を複製写真で見て衝撃を受け、論文を書き始めている。そこでヴァールブルクは、絵の額と楽器の側部に現れる小さな模様の類似を見出し、そこから描かれた人物を同定しようとする。
驚くべきは絵画の細部に迫るヴァールブルクの視覚の鋭さだ。スティミリ氏はこのヴァールブルク的な視覚の鋭さをなぞるようにして、ヴァールブルク自身の手稿の分析をおこなっていく。ヴァールブルクの手稿には多くの書き直しの跡があるが、この絵についての論文では、その書き直しが、「上から紙を貼る」ことでなされている個所がある。訂正前の文は下からわずかに透けて見える。スティミリ氏はこの手稿の「ペンティメント」、ないし「パリンプセスト」としての手稿を慎重にデコードする。そこから見えてくるのは、ヴァールブルクが「microscopicな観察がmacrocosmicなヴィジョンに変わる」という文を、「…microcosmicなヴィジョンに…」に書き直していたことだ。
未出版稿であるため、最終的にヴァールブルクがどちらの語を選択したかはわからない。だが、それじたいmicroscopicな観察から現れるこの不確定な、あるいは両義的な揺れ動き(a/i)の場そのものが、ヴァールブルクの方法の核心を指しているように私には思えた。
さまざまな思考の機会を与えられる刺激的なレクチャーだった。スティミリ氏は3月にもう一度来日してシンポジウムが行われることになっている(3月17日(火))。詳細は追ってUTCPのウェブサイトに掲載される予定。こちらもいまから楽しみだ。
(報告:平倉圭)