報告 「世俗化・宗教・国家」 セッション11
10月20日、共生のための国際哲学特別研究VI」第11回セミナーが開かれた。
後期最初の授業となった今回は、来週にも来日されるフランス高等研究院名誉院長のジャン・ボベロ氏についての業績やライシテ研究のスタンスについての情報を共有するために、日本学術振興会特別研究員の伊達聖伸氏を迎えてセミナーが行われた。
伊達氏は、フランスにおけるライシテ研究を専門とされているだけでなく、フランス留学中にボベロ氏から指導を受けられていたこともあり、日本においてボベロ氏をもっともよく知る研究者であるといえよう。
まず、ボベロ氏のキャリアが簡単に紹介された後、ボベロ氏がフランスではマイノリティーであるプロテスタントの出自をもっていることに言及された。ボベロ氏のライシテ研究の原点のひとつがそこにあることは、おそらく間違いなかろう。ボベロ氏はまた、2004年に成立した公共の場におけるスカーフ着用を禁じた法律に大きな役割を果たしたスタズィ委員会のメンバーでもあり、フランスにおけるライシテ研究の第一人者として大きな影響力をもつ人物であるといえよう。
ボベロ氏のライシテ研究のスタンスは、ライシテの「脱神話化」を目指すものであるということができる。すなわち、ボベロ氏は「記憶」による人々の曖昧なライシテ・イメージを、「歴史(的事実)」をあきらかにすることによって、よりよい方向に変化させていくことが可能であると考える。これは、ピエール・ノラの主張を踏まえたものであり、この意味においてボベロ氏のライシテ理解は、ライシテを否定的に捉えたルイ・カペランはもちろん、これを肯定的に評価するアルベール・バイエとも大きく異なるものである。
このことは、ナポレオンと教皇ピウス7世との間に締結されたコンコルダへの評価の違いにもあらわれている。コンコルダをフランス革命期からのライシテの「後退」であると認識するアンリ・ペナ=ルイスとは対照的に、ボベロ氏は、これを「複数型公認宗教という多元主義」であるとして評価する。
また近年問題となっているフランス国内のイスラーム教については、イスラームそのものが悪いのではなく、イスラームはあくまでライシテの現状を映し出す鏡であるとして、イスラーム教が政教一致の宗教であるとする言説に反対している。
セミナーの最後には、フランスにおけるライシテ研究の潮流について、あるいはボベロ氏のイスラームの捉え方についてなど、多くの質問が出された。今回のセミナーの成果が、来るべきボベロ氏との対話をより実りあるものとすることを期待したい。
報告者:澤井一彰