Blog / ブログ

 

報告 「世俗化・宗教・国家」 セッション9

2008.11.04 羽田正, 澤井一彰, 世俗化・宗教・国家

10月20日、共生のための国際哲学特別研究VI」第九回セミナーが開かれた。

今回のセッションでは、クラーク・B・ロンバルディ氏(アメリカ、ワシントン大学法学部准教授)による、「シャリーアの法的解釈:エジプトにおける傾向と諸関係」と題した講演が行われた。
081020_Lombardi_Semi_01_01.jpg

 まずロンバルディ氏は、「イスラーム法とは何であるのか?」という問いを打ち出し、イスラーム法が「(イスラーム)法学者たち」の法であるということがあまりにも自明のものとされ過ぎている点を指摘した。さらに氏は、シャハトによって1964年に書かれた著名な『イスラム法入門』にも、イスラームの法体系においては裁判官はイスラーム法を解釈しないと述べられているとつづけた。しかし一方で、ロンバルディ氏は、とりわけ近代エジプトにおける「イスラーム的再解釈Islamic Review」の興隆に焦点をしぼって検討を行い、むしろエジプトの法廷は時としてイスラーム法をリベラルかつ人権擁護的に解釈していると主張した。

 その後、ロンバルディ氏は古典的イスラーム法について簡単に説明し、そうした古典的イスラーム法においては、ムスリムがいかにイスラーム法を解釈するべきかについてのコンセンサスが19世紀末には崩壊していると結論付けた。さらにロンバルディ氏は、こうした状況をイスラーム法の近代的な解釈によって打開するべく努力した二人の人物としてラシード・リダーとアブドゥル・ラッザーク・サンフーリーを取り上げた。リダーは、イスラーム法の解釈を古典法学者に限定せず、コーランやハディースによる解釈が適用できない領域に関しては功利主義的な手法によって解釈することを認めた。一方で、フランスで近代的ヨーロッパ法を学んだサンフーリーは、伝統的な法解釈を拒絶し、ロンバルディ氏によれば、イスラーム法は新たな、しかも確定的な近代的判例にもとづくものでなければならないと強く主張したという。

 最後に、ロンバルディ氏は近代エジプトにおけるイスラーム法の変化についてふれ、実際には、「法学者のイスラーム法」から「裁判官のイスラーム法」への変化が確認されると指摘した。かりに現代のイスラーム法について知りたければ、我々は古典的な法学書だけを読むのではなく、むしろ新聞を読むなどして現在の状況にも目を配るべきであるとして講演を締めくくった。

その後は、講演中にロンバルディ氏が用いた「リベラル」という語についての意味を問う質問が出されるなど、多くの活発な議論が行われた。最後に、司会の羽田教授が、ロンバルディ氏の新しい著作が今後、上述のシャハトにかわる新たなスタンダードとなることを希望するとコメントして、「世俗化・宗教・国家」のセッション9は終了した。

報告者:澤井一彰

Recent Entries


  • HOME>
    • ブログ>
      • 報告 「世俗化・宗教・国家」 セッション9
↑ページの先頭へ