【刊行】『脳神経倫理学の展望』
事業推進担当者の信原幸弘さんと元UTCP研究員の原塑さん(現東京大学大学院総合文化研究科特任研究員)編著の『脳神経倫理学の展望』が勁草書房から刊行されました.
近年の脳神経科学の発展は「心」についてのわれわれの理解を増進させ,また,われわれの人生を幸福にさせるような技術を生み出しつつあります.しかしそうした脳神経科学の発展は,わたしたちの心や人間性に少なからず影響を及ぼすであろうとも考えられます.そこで,いま問われなければならないのが脳神経科学にまつわる倫理的問題です.
本書はUTCP神経倫理学研究班がこれまで取り組んできた研究の成果です.
また,研究班の成果に加えて,香川知晶さん(山梨大学),福士珠美さん(科学技術振興機構社会技術研究開発センター),奥野満里子さん(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にも協力していただき,論文を収録しています.
産声を上げて間もない「脳神経倫理学」ですが,本書は脳神経倫理学の全体的な展望を描くことを目的としています.
【もくじ】
序章 脳神経科学と倫理………………………………………………信原幸弘
1 技術的応用の恵みと災い
2 人間観への影響
3 可能性のなかでの問い
4 脳神経科学からの逆襲
I 脳神経倫理学とは何か
第 1 章 「応用倫理学」とモンスターの哲学………………………香川知晶
――脳神経倫理学の可能性
1 はじめに
2 応用倫理学とは何か――生命倫理学の成立事情から
3 脳神経倫理学の登場
4 モンスターの哲学という視座
5 「応用倫理学」と脳神経倫理学の可能性
第 2 章 脳神経倫理学の展開…………………………………………福士珠美
――成立からの経過と展望
1 脳神経倫理学の総論の成立
2 諸外国における各論の展開
3 日本における脳神経倫理学の成立と展開
4 脳神経倫理学の国際連携
第 3 章 歴史にみる脳神経科学の倫理問題…………………………奥野満里子
――骨相学、精神外科、そして現代
1 はじめに
2 一九世紀の骨相学
3 二〇世紀半ばの精神外科手術
4 最後に――現代人が反省すべきこと
II 脳神経科学の技術的応用をめぐる倫理問題
第 4 章 「究極のプライバシー」が脅かされる!?…………………染谷昌義・小口峰樹
――マインド・リーディング技術とプライバシー問題
1 はじめに
2 脳活動から心を読む技術の現状
3 心の読み取りの理論的問題
4 「究極のプライバシー」とは何か?
5 まとめ
第 5 章 責任の有無は脳でわかるか…………………………………河島一郎
――精神鑑定から脳鑑定へ
1 精神鑑定のどこがまずいのか
2 精神鑑定から脳鑑定へ――脳神経科学を利用する
3 脳鑑定は万能か
4 適切な鑑定へ向けて――精神鑑定を利用する
5 まとめ
第 6 章 メディア暴力と人間の自律性………………………………原 塑
1 はじめに
2 法的規制をめぐる倫理的論争
3 自律性の神経哲学的検討
4 まとめ
第 7 章 薬で頭をよくする社会………………………………………植原 亮
――スマートドラッグにみる自由と公平性、そして人間性
1 スマートドラッグの現状と将来
2 社会的帰結をめぐる対立――自由と公平性
3 価値と人間性をめぐる対立
4 人間性と社会の変化をどう捉えるか
第 8 章 記憶の消去と人格の同一性の危機…………………………中澤栄輔
1 はじめに
2 忘れたくても忘れられない記憶
3 PTSD
4 PTSDの治療とプロプラノロール
5 記憶の消去・変更と人格の同一性
6 まとめ
III 人間観への深刻な影響
第 9 章 脳神経科学からの自由意志論………………………………近藤智彦
――リベットの実験から
1 リベットの実験のインパクト
2 内観報告は信頼できるのか
3 「拒否」の可能性
4 行為をより大きなプロセスの中で考える
5 脳神経科学からの自由意志論の展望
第10章 脳神経科学からみた刑罰……………………………………鈴木貴之
1 反社会性の脳神経科学
2 刑罰から治療へ
3 責任能力の行方
4 治療的介入の妥当性
5 予防的介入の可能性
6 まとめ
第11章 道徳的判断と感情との関係…………………………………蟹池陽一
――fMRI実験研究の知見より
1 はじめに
2 fMRI実験研究の背景となった損傷研究
3 単純な道徳的判断における脳の活動
4 自動的な反応としての道徳的感情
5 脳の各部位の機能と諸実験の結果の含意
6 複雑な道徳的判断での「感情」と「認知」
7 まとめ
第12章 神経神学は神を救いうるか…………………………………髙村夏輝
1 病理学的アプローチ
2 宗教経験はいかにして生じるか
3 新たなる神の存在証明
4 脳神経科学は宗教を葬り去れるか
あとがき
脳を調べる主な装置