【報告】UTCPフランス語コース"Introduction au français académique"
UTCPフランス語コース "Introduction au français académique" が、5月20日、6月10日、7月15日の日程で全3回開催された(西山雄二、藤田尚志、ミシェル・ダリシエ主催)。
本コースの目的は、主に学術的な分野でのフランス語の実践能力(聴解および会話)を向上させることである。UTCPではすでにAcademic Englishコースが定期的に開催されており、若手研究員の英語能力向上に大いに寄与している。それに準じて、フランス語の能力向上の機会を設けようというのが主催者の狙いであった。
内容としては、第1回目は、日常会話の日本語‐フランス語への通訳、ジャック・デリダのインタヴューの通訳練習。第2回目は、UTCPブログ記事のフランス語訳、ジョルジュ・アガンベンのインタヴューの通訳練習。第3回目は、UTCPブログ記事のフランス語訳をおこなった。新規に試みられたコースだが、試験的に全3回が終了していくつもの反省点が残ったので以下に記しておく。
参加人数について
参加人数は主催者3名を含めて、僅々3-5名にすぎなかった。少人数での語学練習はもちろん理想的な体制であり、実際、濃密な語学修練をおこなうことができた。また、講師役のダリシエ氏の教え方は丁寧で、随時黒板を使いながら効果的なフランス語指導をおこなった。ただ、今回のフランス語コースは私費による市中の語学学校ではなく、公費によるCOEプログラムの枠で実施されるものである。より多くの参加者がこの機会を享受することが望ましく、ほとんど主催者だけでコースを運営し参加し学習するだけではその公益性が十分とは言えない。今回はUTCP関係者に限定して若干名の参加としたのだが、他にも東京大学の博士課程学生などに幅広く声をかけることで、一定数の参加者を見込むべきだった。
語学レベルについて
参加者が集まらなかった理由としては、語学レベルの設定の問題がある。外国語は留学経験の有無がそのレベルの顕著な違いをもたらす。今回の参加者は「フランスに留学・生活経験があり、今後もフランス語を第一外国語として使用する予定の者」だけだった。つまりそれは、「フランス語をすでにある程度習得し、フランス語で学術的な発表や議論をおこなう必要性がある者」である。「フランス語をこれから学ぼうとするまったくの初学者」はともかくとして、「フランス語を勉強したことはあるが留学などの実践的経験はない、しかし、フランス語での学術的催事などに参加して内容を少しでも理解しようという向上心がある者」も参加できる内容にして、多様なレベルの参加者が集うことが望ましかった。
プログラム内容について
当初は、90分の枠のなかで、①日仏通訳:日常的な内容の文章を逐次的に通訳、②仏日通訳:学術的な内容の講演録をテープで流し、逐次的に通訳、③討論:短い文章をもとに担当者が発表、その後、全員で自由討論、という構成を予定していた。しかし、時間が圧倒的に足りず、③の自由討論は割愛せざるを得なくなった。語学の修練は無理なテンポでメニューをこなして効果が出るものではないし、とはいえ、自由にだらだらと練習しても緊張感がなくなる。時間配分や内容編成には大いに工夫が必要である。
回数について
試験的に開始したコースなので、今回は月に1回の開催とした。もちろん、語学能力の向上としてはきわめて不十分な回数であり、参加者の予定や熱意を踏まえた回数設定が必要となるだろう。
以上が今回のフランス語コースに関する反省点である。これらはあらゆる語学学習プログラムの実施に共通する基本的な要点だろう。もし次回、フランス語、およびその他の外国語に関するプログラムを開設する場合には、入念な準備と実効的な見通しをもって実行に移すべきであると考える。
(文責:西山雄二)
※本ブログを閲覧した方から、「こうした問題点が生じることは実施する前から明白であり、あらためて確認するほどのことだろうか」、という指摘をいただいた。ダリシエ氏、藤田氏、私は語学教師であるので、当然ながら、実験的に新設する語学プログラムにこうした問題が生じることは予測していた。重要なことは、不可避のさまざまな問題点を自覚しつつ、実際にプログラムを運営するなかで、問題を軽減していく術と知恵を見い出し、これを広く共有することである。問題を完全に解消するのではなく、その軽減のプロセスが重要なのであり、本ブログ報告を公開することはそのプロセスの一部である。