報告 「世俗化・宗教・国家」セッション 6
6月23日、「共生のための国際哲学特別研究Ⅰ」第六回セミナーが開かれた。
今回は、大西直樹、千葉眞(編)『歴史のなかの政教分離:英米におけるその起源と展開』(彩流社、2006年)所収のいくつかの論文を取り上げ、担当者二名(田瀬望、大野晃由:両者とも東京大学大学院生)による報告の後、参加者を交えた議論が行なわれた。
田瀬は、編者の1人である千葉眞による序論、齋藤眞「政治構造と政教分離」、大西直樹「初期アメリカにおける政教分離と信教の自由」の三つを参照しながら、17世紀イングランドと独立前後のアメリカ合衆国における政教分離の展開について報告した。イングランドについては16世紀以降の中央集権化と国教会の成立による国家と宗教間の結合の強化を背景として、17世紀に宗教的マイノリティによって政教分離や信教の自由が主張されるようになったことなどが指摘された。アメリカ合衆国については、独立後に憲法に規定された政教分離条項は、政治的・宗教的亡命者の存在などによって独立以前から多様な政教関係を構築していた各州を連邦政府のもとに統合するための手段であったことなどが指摘された。
報告後は、報告者の提起した、アメリカの事例に対して「世俗化」概念を用いた分析を行なうことへの疑問について主に議論が行なわれ、報告者の「世俗化」の定義を質すコメントや、政教分離という現象自体が世俗化プロセスの一環なのではないかとのコメントなどが出された。
続いて行なわれた大野報告においては、原千砂子「民主主義社会における宗教の役割-トクヴィルの宗教論」、増井志津代「ファンダメンタリズムと政教分離」、千葉眞「アメリカにおける政治と宗教の現在-新帝国主義とキリスト教原理主義」の三つが取り上げられた。「教会」内の公共的スポークスマンの不在によってキリスト教指導者の役割が低下し、「国家」と分離されるべき「教会」がTV伝道師の活躍やパラチャーチの出現などによって多様化あるいはミクロ化している現状と、ファンダメンタリズムの隆盛が深く関係していることを批判的に論じていることが報告された。
大野は、これらの論文が「教会」のミクロ化現象の評価に関して全く異なる視座から検討を加えており、共同研究としてあるべき統一性の欠如がみられると批判したほか、TV伝道師らの活躍によるファンダメンタリズムの影響力の強化に対し、新たな公共神学/哲学の形成の必要性を対置させる主張の有効性にも疑問を呈した。
報告後は、TV伝道師の役割の増大が他の地域でも観察されることが指摘され、その共時性に着目することが必要であるとの指摘がなされたほか、大衆レベルでのファンダメンタリズムの広がりを現在のアメリカ政治状況と直結させて論じることへの疑問などが示された。
(文責:勝沼聡)