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時の彩り(つれづれ、草) 034

2008.05.30 小林康夫

☆ 聴くことの空間(アルバン・ベルク四重奏団)

たまにはUTCPと関係のない話を。

先週末にアルバン・ベルク四重奏団の演奏を聴きに神奈川県立音楽堂に行った。ここは5年間にわたって毎年「21世紀における芸術の役割」のシンポジウムを行ったなつかしい場所(この記録は未來社から刊行されている)。忙しいときだからこそ、無理をしても音楽を聴くとか、舞台を見るとか、小説を読むとかが必要。アルバン・ベルク四重奏団は37年に及ぶ活動に終止符をうつのだそうで、日本におけるラスト・コンサート。聴いておこうと出かけたわけだ。

ハイドンの最晩年の第81番に、もちろんベルク(op.3)と来て、最後はベートーベンの弦楽四重奏曲第15番イ短調。周到に用意された「お別れ」のプログラム。なによりも磨きあげつくされた独特の響き。そして強い情感。ホール全体が一音も聴き逃すまいとものすごい集中力。いや、音楽を聴くということは、まさにこのような共同の場における「聴く」空間のなかに音楽が立ち昇ることなのだ、とあらためて思い識った。

どんなに精巧な再生装置を使っても、この「聴く」共同性だけは手に入らない。先日、日経新聞にデュラスの『戦争ノート』の書評を書いてそこで使った表現だからなのかもしれないが、ミケランジェロのあの奴隷たちが大理石の塊のなかから存在しはじめているように、音楽も「聴く」空間のなかからそこに彫りだされるように立ちのぼってくると感じられた。

アンコールは一曲だけで、それもまたベートーベンの第13番の四重奏曲の「あの」アダージョ(op.130)。ああ、こんな風に死んでいけたらなあ、と思わず自分が思っているのに気づく。そう、たまにはこのような言葉なき真正の「深さ」に触れて魂を振るわせなければならない。それが「解放」なのだから。


☆ ご案内(国立国際美術館)

明日のことなのですが、大阪の国立国際美術館でシンポジウムに出席します

★シンポジウム[映像と絵画]
5月31日(土)午後2時~
国立国際美術館 B1講堂

司会: 加須屋明子(当館客員研究員)
パネリスト:
やなぎみわ(美術作家)
小林康夫(東京大学/UTCP)
稲垣貴士(大阪成蹊大学)
建畠晢(国立国際美術館)
http://www.nmao.go.jp/japanese/kouenkai.html

現在開催中の[液晶絵画]展の関連です。

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