破急風光帖

 

★  日日行行(181)

2018.10.08

* ピアニストの手。じっと凝視めていました。鍵盤からほとんど離れずに、まるで音を滑らかにさわっているかのようなのに、激しい音の雲がたちのぼり、なにかがほとばしる。76歳のピアニストの体からシューマンが、ショパンが現れる。

 昨夜、サントリーホール。ポリーニの演奏会でした。さいわい9列正面左という素晴らしい席をゲットできて、ここなら、今夜は音楽だけではなくポリーニさんの「からだ」をしっかり見届けようと思いました。第1部のシューマンのピアノ・ソナタ第3番の第2楽章終り、鍵盤からおろした右手の激しい動き、一生忘れないと思います。そして、第2部のショパン、ピアノ・ソナタ第3番、出だしからもう涙が滲みます。こうなるとピアニストの手を見るよりは、音楽に包まれて心はどこかへ。素晴らしいコンサートでした。感動です。
 ポリーニを聴きに行くようになったのは、たしか2005年から。昨夜帰って日誌を調べてみましたが、たぶん今回が6回目ですね。ほかの人を聴きに行かないわけではないが、わたしの人生の後半に随伴してくれたピアニストは、ポリーニにつきます。わたしはポリーニの時代を生きました、と言えるような気がします。アルゲリッチもまったく逆の世界でその音楽も好きなのですが。なにしろ、わたしの葬儀のときには、ショパンのピアノ・ソナタ第2番の葬送行進曲のトリオをかけてほしいが、それはポリーニでなければだめだと書いているくらい(『こころのアポリア』)。そのために、自宅の書斎には、包装を破っていない新品のCDがとってあったりするのだから。

 秋は、音楽。今日は、青山学院のわたしが所属する総合文化政策学部の10周年イベントで坂本龍一さんと福岡伸一さんの対談を聴きに行きます。対談のあとには、一昨日、わたしが審査委員長をつとめた学生の企画コンテストの表彰式もあるし。でも、まだ魂の下の層では、昨夜のピアノの音が響いているような気がします。

 
 


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