破急風光帖

 

★  日日行行(694)

2025.10.02 Permalink

(4)
 「影、友よ」と呟いていたのだったか。
 真っ赤な彼岸花が咲き乱れる川岸の細道を雲に向かって歩いていた。足元からは飛蝗が前へ、前へと跳んで行く。後戻りはしない。少し逸れて、しかし前へ、ただ前へ。振り返ったりはしないのだが、たぶん、わたしの後ろには、もう輪郭も定かではないかもしれないが、影が引き摺られるように伸びている。
 「光は、どんな光も、この三次元の空間のなかのものではなく、影は、どんな影も、この空間の外へと通路を開いてる。そうなのだね。われわれは光と影のあいだにある。まるで線が点と面のあいだにあるように。いつでも光と影に分裂して砕け散っていこうとしている」(「影、あまりに人間的な」in 『思考の天球』)。

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