破急風光帖

 

★  日日行行(693)

2025.09.24

(3*)
 ついに、秋!窓ガラスを通して突き刺さる秋の光!
 途端に、忘れていた女神の名が、忽然と、浮上する。
 NIKE! ニケよ! わたしはあなたの名を呼ぶ。希望の女神の名を呼ぶ。

わたしは知っている、あなたとあなたに重ね合わされているもうひとりの女神が同じ存在ではないことを。人間の歴史は多くの誤解からできている。誤解は塗り固められ、すると存在は隠蔽されて、顔が消えてしまう。
 ニケ、希望の女神。われわれはあなたの顔を知らない。そして、それだからこそ、見えないあなたの美しい顔をわれわれは見ようとする。それが希望。
 あなたに重ね合わされたもうひとりの女神はヴィクトーリア、勝利の女神。金髪が輝く力強い女神。そう、ヴィクトーリアの前で、わたしは膝を折り、祈る。即刻いま、出来事よ、起れ!と。幾度、そうしたことだろう、途端に、時空は裂ける。光は飛び散る。勝利とは時空を組み換える出来事が起こることなのだ。
 だが、ニケ、あなたは、なによりもそうした不可能な出来事へと達する途(みち)を明ける存在。あなたにはわたしは祈らない。ただひたすら待つだけ。希望の光が差しこんであなたの顔が見えるまで待つ。
 Equinoxe(秋分)の刃の上に危うく立ちながら、秋の光に差し貫かれて、わたしは待つ。


↑ページの先頭へ