破急風光帖

 

★  日日行行(611)

2023.04.12

* 昨日は、ホテル・ニューオータニで、昨年亡くなった吉田喜重監督を偲ぶ会が開かれました。発起人は、蓮實重彦先生。奥さまの岡田茉莉子さんの主催です。わたしも招かれてスピーチをしました。2003年に吉田監督の最後の映画作品「鏡の女たち」の上映会を駒場キャンパスで企画したのが最初の出会いだったでしょうか。その後も「美の美」の上映会で何度かコメンテーターをさせていただいたり、監督の学生時代の親友でもあった、わが「師」宮川淳さんについての本『宮川淳とともに』(水声社、2021年)をいっしょにつくらせていただいたりしました。多くの喜びをいただきました。

 でも、わたしは映画関係者というわけでもなく、監督とより親しかったにちがいない多くの人を前にして、わたしがお話ししていいのか、というとまどいもあったのですが、監督にはまだ返していない「借り」があるという思いからスピーチをお引き受けし、思い出を語るのではなく、その「借り」を返すことを自分に課しました。
 「借り」というのは、吉田さんが晩年の20年を賭けて書いた小説『贖罪』についてでした。ご本をいただいたのに、ルドルフ・ヘスをめぐるこの小説をこれほどまでにして吉田さんが書いたその「心」をつかみそこなって、茫然としました。そのため、読後感をきちんとお伝えできなかった、それが「借り」だったのです。
 今回、ですから読み直しました。そして、昨日、みなさまに申し上げたのですが、前日4月10日の早朝、なぜか目がさめて暗闇のなかで『贖罪』のことを考えている自分がいて、そのとき、なにか自分なりにとうとうわかった!ような気がしたのです。4時39分でした。そのことを言葉にすることができて、わたしはひとつのdutyを果せたような気持ちになりました。
 とても、とてもシネマトグラフィックな時間でありました。


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