破急風光帖

 

★  日日行行(590)

2022.12.20

* 「声/泪 十選」(5)
 もうひとつくらいシャンソンで。となると、この「十選」を思いついたのは、じつはこの夏、日付も正確に8月10日なのですが、いつものように高速道路を走っていて、たまたま聴いていたCDで泣いたから、ということを告白しなければなりません。コラ・ヴォケールの「モンマルトルの丘」からエディット・ピアフの「愛の讃歌」まで20曲。どれも馴染みの曲ばかり。でも、二番目のシャルル・トレネの「ラ・メール」で泪が出た。この曲については前回、グレコで語っていますけど。で、次に泪がにじんだ、いや、ほんとうに泣いたのが、イヴェット・ジローが歌う「ミラボー橋」でした。パリのシャンソンたくさんあるけど、わたしにとっては、この曲かなあ・・・les jours s'en vont, je demeure(日々はすぎさり、わたしはとどまる)・・・でも、どんな「橋」の上にとどまっているのか・・・いつ渡れるのか、まだ渡らないのか・・・「なんと希望のはげしいこと!」

 というわけで、最近は、シャンソンばかり聴いていました。まあ、20歳前後の若い時代の「歌」がもどってくるのも、一度くらいはいいのでは?・・・ブラッサンスでもバルバラでも、ムスタキでも、歌を聴いていると、パリの、フランスの風景が走馬灯のように戻ってきますね。わたしが住んでいたモンマルトルのrue Véronの光景とか・・・それだからこそ、そのよみがえる「声」(歌手の「声」というよりは、「過去のわが生の声」かな?)に泣くんですね・・・結局、この「十選」は、そういう回想の時間の「光」をちらっと語ってみるということなのだと思います。
 (そう考えると、50歳をすぎて以降、いったい自分はどんな新しい「歌」を聴いたのだろう?と、あまりの貧しさに愕然としますね・・・わが心に「声」が刻まれている最後の歌手は誰だろう?・・・)


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